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大方の予想よりも早く、日の入りからしばらくして雪に変わった雨が、既にあたりを一面の銀世界に変えつつあった。 天候がコンピュータにより適度に調整されているスペースコロニーでは考えられないほどの雪が、一度に降りしきっている。 その雪の中を、人型のものが静かに、すべるように移動していた。 この雪の中、しかも夜である。 よほどのことがない限り、この状況下でスキーをしようなどと思うものはいないはずであろう。 そう、それは人ではなかった。 もっとも、その大きさを見れば、誰にでもそれが人でないことは、容易に想像がついたのだろうが。 だが、それを見る者どころか、あたりにはそれ以外に、生命の気配すら感じることは出来ない。 白と黒の入り混じった闇の中を、そのものだけが静かに動いている。 それは、クロスとエティシアのドムであった。 いつしか、辺りはただの雪から、吹雪に変わろうとしていた。 −白い闇の中で− 「中佐、吹雪になってきましたし、そろそろ戻りませんか?」 控えめに、エティシアがそう進言する。 この地方の風土を考えてのことか、それともただ単にクロスの趣味なのか、一応この機体には寒冷地用の装備はされてはいたが、たかだか試運転で、雪が降りそうな山中にわざわざ分け入っていくのはどうかとも思ったのだが、今のエティシアでは、それをクロスに言うことは出来なかった。 が、さすがに吹雪いてきて、そろそろ視界もままならなくなってきている。 幸い、徒歩ではなくMSであれば、寒さはしのげるし、道に迷うということもない。 しかし、MSとて万能ではなく、結局はパイロットの腕と判断によるところが大きければ、この雪に足をとられる、何てこともないとはいえない。 せっかく修理したというのに、雪道を踏み外して転落、なんていうのは、この機体が別にエティシアの機体ではないといえ、勘弁願いたいものである。 しかもそうなったらそうなったで、結局またエティシアが修理させられるのだろうから、尚更始末に悪い。 「うーむ、確かに、そろそろ戻ったほうがいいか。」 その進言に、以外にもクロスはそう素直に返答をする。 最悪の状況になったとて、今の状況も加えて、クロスにすればエティシアをからかう材料にはなるなどという考えもないではなかったが、そのためだけに愛機をまた壊す、というのはさすがのクロスにしてもいささか躊躇われた。 連邦の影もちらつき始めている。 いいかげん、ふざけてばかりいるわけにもいかない。 まあこの雪の中でこれだけ動き回れればとりあえずは上出来であろうし、いいかげん、試運転という言い訳も通用しないだろう。 「よし、今日のところはこれで・・・」 切り上げるか、とそう言いかけて、だが、クロスの視線が止まった。 思案のため、一度その場にドムの機体を止めた。 地上を高速で移動するために、ドムの脚部にはホバーが装備されている。 ドムを止めたことで、ホバーにより巻き上げられていた雪がおさまり、そのことが、吹雪の中に一瞬だけ、道を作り出した。 時間にしてコンマ数秒にもみたないその一瞬、その刹那に、だが、クロスはそこに何かを見たような気がした。 一流のパイロットであるがゆえに、彼の眼は、それを捕らえることが出来た。 この山のどこかに"それ"が隠れていることは分かっていたし、遅かれ早かれ"それ"を自分は見つけなくてはいけないことも分かっていた。 だが少なくとも、今に関してはことさらに"それ"を探していたわけではない。 何か目的があったわけではなく、ほとんど闇雲に、山中を走り回っていたに過ぎない。 だが、だからこそ見つけられた、というのは、案外ある話でもあった。 「まさか・・・」 「どうか、しましたか?」 だが、見えたのは、というより見えた気がしたのは、ほんの一瞬のことで、既に目の前は再び吹雪により遮られている。 この状況だ、木かなにかと見間違えたのかもしれない。 事に執着すれば、幻が見えることもある。 見えなくなったことで、次第にクロスの頭の中をそんな考えが支配し始めた、そのとき、 「なんでしょう、あれ?」 そんなエティシアの声が、彼の耳に飛び込んできた。 その時、リーンがガンダムのところにいたのは、果たして単なる偶然だったのだろうか。 夜半から雪になるというのを知っていながら、彼はひそかに家を飛び出し、ガンダムの元へと足を運んでいた。 実際は女手一つで彼を育ててくれた母は、仕事で滅多に家に戻ることもなかったから、その彼の行動を誰も咎めるものもなかったのだが。 もっとも、家にいたとしても、おそらく彼の母は彼を止めようとはしなかっただろうが・・・。 胸騒ぎがしたというべきか、あるいは例によってレナの声が聞こえた気がしたか、少なくとも何らかの予感が、リーンの中には確かにあった。 それがなんであったかは、降り始めた雪の中を懸命に走り、ガンダムのコクピットに納まった瞬間に、頭の中からきれいに抜け落ちてしまっていた。 メインエンジンに灯を入れたその瞬間に、リーンの視界にあるものが飛び込んできたからである。 それを、リーンは知っていた。 見たことがあった。 あの日、ガンダムと出会ったあの日、ミデアの中で見た、もう一つの機体。 「おっさんの、モビルスーツ、か?」 それは、単なるリーンの想像でしかない。 だが、今は、不思議とそれが正しいように思われた。 いや、見えたというべきかも知れない。 そのモビルスーツを見た、その瞬間に、コクピットにおさまったあの"おっさん"のビジョンが不意に頭の中に飛び込んできたのである。 それは、不思議な感覚であった。 リーンは気付いていないが、実はそれは逆であった。 モビルスーツを見たから、ビジョンを感じられたのではない。 ビジョンを感じることが出来たから、モビルスーツを見つけることが出来た、というのが正確である。 そしてそれは、クロスやエティシアが、そのもの・・・つまり彼自身の乗るガンダムを見つける、一瞬前のことであった。 その一瞬が、彼に先に考え、動く時間を与えた。 べつにリーンとしては戦いたいわけではない。 ましてあのおっさんと戦う理由もない。 いや、なまじ知っているだけに戦いたくない、というのがむしろ本音であった。 だからとっさに、リーンはこの場から逃げることを思いついた。 先のビジョンから察するに、向こうはことさらにこちらを探しているわけではないようだ。 更にこの視界であれば、いったん離れて彼らの視界の外まで行けば、やり過ごすことができる。 だが、そう考えた瞬間に、彼の頭の中にサイド飛び込んできたビジョンがあった。 それはまさに、エティシアがこちらを見つけた、その瞬間であった。 「見つかった!?」 一瞬、リーンは動揺する。 無理もない。 驚異的な力でビリーのグフを退けたとはいえ、所詮彼は一介の学生でしかないのだ。 そもそもビリーを退けた力も、純粋に彼の力なのかどうか疑わしいほどである。 そしてその同様が、彼の行動を一瞬遅らせ、結果的に先のアドバンテージを吐き出すこととなる。 たいして、クロスたちは、さすがに軍人であった。 エティシアも、新米とは言われながらも軍人の端くれである。 加えて、少なくともリーンよりはよほど事情に精通している。 だから、対応は素早かった。 リーンの予想を遥かに上回る対応の早さ。 その瞬間、リーンは対等どころか圧倒的不利な状況に、あっという間に追い込まれることとなった。 リーンの動揺覚めやらぬその間に、クロスのモビルスーツがまず最初の一撃を放つ。 左肩のキャノン砲からまず一撃、続けざまに今度は右肩から一撃。 距離と視界のおかげでさすがに直撃はならないものの、その砲撃はリーンのガンダムの間近に着弾し、吹雪の中に、更なる雪煙を巻き上げた。 距離の問題もあるが、実のところクロスたちにしてもガンダムを破壊してしまうというのはあまり得策ではない。 逃がさないための、だが破壊はしないように、そのための威嚇射撃であった。 そういう意味でエティシアの射撃は正確で、しかも状況判断も出来ていると感じられる。 もっとも、リーンにしてみればそんなクロス側の内情は知る由もない。 冷静に考えればリーンでも想像はついたかもしれない。 あるいはもっと冷静であれば、先ほどのようなビジョンが見えたかもしれない。 が、意図してビジョンを見ることなど、もちろん今のリーンにできるはずもなければ、冷静に考える余裕も、ありはしない。 キャノン砲の威力を目の当たりにして、『当たらなければどうということはない。』などと今のリーンに言えるはずもなかった。 そのキャノン砲の衝撃で、リーンのガンダムはバランスを崩す。 二足歩行の制御が難しいといっても、実用レベルにまで高められた実戦兵器である以上そのオートバランサー機構はきわめて優秀である。 平時でであれば多少バランスを崩したぐらいで倒れるようなことはない。 直撃したならともかく、爆風程度でひっくり返る兵器など、使い物にはならないだろう。 ましてリーンは気付いていないが、一応ガンダムは汎用兵器と、そう謳われている。 が、汎用にも限度というものがある。 残念ながらこれだけの大雪は、その想定外であった。 リーンが焦ったこともあってか、バランスを崩したガンダムは、降り積もった雪に足をとられ、前のめりに倒れた。 エティシアもクロスも実のところこのガンダムが動いている姿を見るのはこれが初めてだった。 だから、むしろこの程度の衝撃でガンダムが倒れてしまったことに、逆に戸惑いを覚えていた。 が、実のところ、ビリーと戦った時も、はじめはこんな調子だったのである。 そのことを、クロスもエティシアもシュリーアから聞いてはいなかった。 そのことが、クロスにほんの少し、判断を誤らせる。 そして戦いにおいては、その本の少しが、取り返しのつかない傷になるものだ。 予想外のガンダムの行動に、クロスは用心しながらガンダムへ徒歩を進めた。 その間、エティシアに威嚇射撃をさせることも忘れない。 そのエティシアもまた、ガンダムの行動に戸惑っていた。 その戸惑いのせいで、すぐそばで聞こえていた破滅の前触れを、彼女は聞き逃してしまっていたのである。 無理もない。 考えてみれば、モビルスーツに乗っての実戦など、彼女にとっては初めてのことなのである。 冷静に対処しているように見えて、実際は彼女の中にも大きな動揺があった。 試運転であるはずのドムに、何故かいつの間にか実弾が装填されていたという事実にも、気付かないほどに。 しかし、それでも彼女の射撃は正確なものであった。 直撃しない、しかし離れすぎない位置に、彼女の放つ一撃、一撃が、白く高い柱を上げる。 その一撃は、徐々にガンダムのパイロットを追い詰めていく、そのはずである。 事実、確かにその砲撃は、徐々にリーンを追い詰めていた。 だが、それこそが、"彼女"の目覚めの引き金であった。 無論、今、そのことに気付いているものは、一人もいない。 『リーン。』 激しい吹雪のためか、着弾の音は聞こえてこない。 ただ、その衝撃だけがコクピットのリーンの体を絶え間なく襲いつづけていた。 立ち上がることも出来ないまま、何も出来ないまま絶望に沈もうとしているリーンの耳に、突如その声は飛び込んできた。 『リーン。』 確かにその声が彼の耳には聞こえた。 そう、レナの声が。 魔物の咆哮のような吹雪の音さえ飛び越えて、その声は彼の耳に届いた。 「レナ・・・空耳じゃない・・・レナの、声だ・・・」 『リーンは、私を守ってくれた。今度は、私がリーンを、守る番。』 レナの声は、確かにそう言った。 もちろん、このガンダムのシステムがレナの人格を元にしているということを忘れてはいない。 そうであれば今聞こえているレナの声など、単なる音声出力システム−そんなものが本当に搭載されていれば、であるが−によるものだという解釈もできる。 システム的に考えれば、むしろその方が自然かもしれない。 そしてリーンもそう考えていた。少なくとも今の今までは。 いくつもの説明のつかないことを体験してもなお。 だが、 『さあ、リーン。私が力を貸してあげる・・・だから・・・』 その声と共に、リーンはコクピットにレナの姿を見た。 白いレナの裸体が、背中からリーンを包み込み、やがてリーンの身体と重なり合う。 幻覚か。 一瞬、リーンはそう感じた。 が、次の瞬間、それが幻覚などではないと、リーンは悟る。 それは、レナのぬくもりを、感じたからである。 そのぬくもりを、リーンが忘れるはずはない。 それは確かに、レナそのものであった。 そして・・・ それはあの時と同じ感覚であった。 あの時、そう、ビリーとの戦いの時も、同じだった。 レナが、力を貸してくれている。 ただあの時の違うのは、今度は、今度こそはそれが間違いなくレナであると、言い切れることだけである。 前の時、あんな回りくどいことをして見せたのは、ミサキがいたらか、と考えるのは少々うがちすぎであろうか? ミサキの前だからこそ、あのぐらいのヒントで気付いてほしいという、女心だったのかもしれない。 もちろん、リーンはそんな微妙なレナの心理も、ミサキの気持ちにも気づくことはない。 「これで、戦える。これで・・・」 レナを守れる。 それが今のリーンの気持ちであった。 同時に、ミサキの言葉の意味を、リーンはようやく理解した。 そしてそれは同時に、このガンダムを誰にも渡すことができない、強い理由が出来た瞬間でもあった。 そうであるなら、戦わなければならない。 たとえ、相手があの"おっさん"だとしても。 レナを、守るために。 「な、なに?」 ここまで平静を装っていたエティシアであったが、さすがにそのガンダムの変貌振りに、動揺を隠せなかった。 今まで成すすべもなくただ倒れていたガンダム。 そのガンダムが、ようやく、ゆっくりとその体を起こした、その直後のことである。 エティシアの威嚇射撃に、どこか萎縮しているようにさえ見えていたガンダム。 だが、立ち上がった後のその姿は、どこか悠然とすらして見えた。 「こちらが威嚇しか出来ないってことが、ばれたのかしら。」 そう思わないでもなかったが、それにしてもあまりに急激に、ガンダムを取り巻くその雰囲気は、豹変を見せていた。 そして、 赤々とガンダムの目が輝いた、その次の瞬間。 厚く厚く降り積もった雪、その悪いはずの足場を、ガンダムはまるで重さを感じさせないような動きで、軽やかにけると、高々とその機体を空へと舞い上げた。 「な、なんなの!?」 その挙動に焦るエティシア。 「ティス!落ち着け!」 そのクロスの声も耳に届かず、エティシアは空のガンダムに向かって砲撃を食らわす。 ドン、ドン、という砲撃の音、そしてそれに混じって、ギシ、ギシ、という何かが軋むような音が、エティシアの周りと包み始めていた。 だが、その音は、やはりエティシアの耳には届いていない。 信じられないことに、ガンダムは空中でその砲撃を軽やかによけると、ドムの眼前に舞い降りた。 とっさにクロスはドムを後退させる。 だが、そのドムを遥かに上回る動きでガンダムは再び舞い上がると、ドムの頭上を軽やかに飛び越えようとする。 「真上!?」 舞い上がったガンダムが光り輝く剣−ビームサーベル−を抜き放ち、ドムの頭上に迫る。 今、この機体に装備されている、それが唯一の武器である。 真上ではキャノン砲は射角をとれず、ガンダムを捕らえることは出来ない。 そして、実は今のドムには、キャノン砲以外に武器は装備されていなかった。 「ちぃ、まずい!」 「いや、まだ・・・」 クロスとエティシアの叫びが、交錯する。 とっさに、ガンダムの後ろ、山肌に向かってエティシアは砲撃を加えた。 「何のつもりだ、ティス!?」 そのクロスの言葉が言い終わるか終わらないかその瞬間。 山肌に降り積もっていた大量の雪が、ガンダムとドムの上に覆い被さって来た。 雪崩が、二機のMSを真っ白な闇の中へと飲み込んでいく。 ドドドド・・・という激しい地鳴りが当たりに響き渡り、それが終わると、辺りは白い静寂に、包まれた。 「各部、異常なし・・・さすがに頑丈なもんだ。」 時間にしてほんの数分ほどだろうか、どうやら自分が気を失っていたことをクロスは悟った。 不測の事態とはいえ、戦場で気を失うなどと、これではエティシアのことを笑えないな、と自嘲してみる。 しかし、エティシアも無茶をするものだ。 もっとも、そのおかげで助かったことに違いはないわけなのだが・・・ 「おい、新米、生きてるか!?」 「あ、はい・・・なんとか・・・」 エティシアもまた、気を失っていたようであったが、ひとまずは、大丈夫なようではあった。 もっとも、破滅はすぐそこに、迫っていたのだが。 「よし、機体を起こすぞ。」 エティシアの無事な様子に、実はほっとしていたクロスであったが、そんなことはおくびにも出さず、そう言い放つと、ドムの体を起こしにかかった。 ドサドサ、と雪を払いのけながら機体を起こすドム。 立ち上がったその眼前には、ガンダムの、姿があった。 リーンもまた、不意の一撃に一瞬、気を失っていた。 『リーン、目を覚まして、リーン!』 だが、そんなレナの声が、彼の意識をすぐに呼び覚ましてくれる。 『リーン。』 明らかに感情のこもった声。 明らかにシステムのものとは思えない声。 機械のものでは有り得ない声。 ぬくもり、感情、そんなものが、ガンダムのコクピットを満たしていた。 そしてそれは、リーンを奮い立たせる。 「あのおっさん、いなくなっててくれりゃ、いいんだけどな。」 そんな淡い期待を抱えながら、リーンはガンダムを起こした。 だが、そんなリーンの気持ちとは裏腹に、立ち上がったその前にはそれが、いた。 クロスとエティシアの駆る、ドムの姿が。 おそらくは、お互いに、お互いの不幸を呪ったことだろう。 このまま、お互いを見つけることが出来なければ、お互い矛を収めることが出来たはずだ。 だが、出会ってしまった以上、戦いは避けられない。 戦いたくはない。 けれど、戦わなければ守れない。 だから、リーンはガンダムに再びビームサーベルを構えさせた。 見つけてしまった以上、見逃してやるわけには行かない。 その戦い方に幾ばくかの興味を覚えつつあったクロスは、だが、その想いとは裏腹に、決意を固めた。 「新米。手加減して勝てる相手じゃない。当てるつもりで、行け。」 「はい。」 その命令に、エティシアは静かに、引き金を引いた。 その時である、 ドンッという激しい衝撃がドムの機体を襲った。 もともとの整備の不十分さの加え、先ほどの雪崩の衝撃、積みあがった雪の重みのために、キャノン砲の砲身がついに悲鳴をあげたのである。 激しく炎を上げ、右肩の砲身が吹き飛んだ。 「おいティス!大丈夫か!!」 とっさに、クロスはティスの身を案じ、ガンダムの存在を、忘れた。 「な、なんだ?」 眼前で巻き起こった突然の出来事に、リーンもまた一瞬戸惑ったが、これが、チャンスであるとすぐに気を取り直す。 考えてみれば、相手があの"おっさん"であるなら、リーンに勝てるチャンスは早々あるものではない。 それは、リーンにもわかる話であった。 なら、 ならば、レナを守るために。 今、ここで決着をつけなければならない。 たとえ、相手があの"おっさん"であったとしても。 だから、リーンはガンダムの機体を、ドムに向かって滑らせた。 「しまった、やられる!」 クロスは自分のうかつさをのろった。 戦場で、敵の存在を忘れるなど、あってはならないことである。 「ったく、だいたい、あの新米があいつに似てるのが悪いんだ・・・。すまんな、だが、ようやくあの世でお前に誤ることが出来そうだ・・・レイディア・・・。」 何もかも、自分のミスである。 覚悟を決めるクロス。 そんなクロスの覚悟を見抜いてか、ガンダムは迷わず突進してくると、残った左のキャノン砲を切り落とし、そして、ビームサーベルをドムのコクピットに向けた。 いよいよ覚悟を決めるクロス。だが・・・ 不意に、ガンダムはその動きを止める。 そして、ほんの少し迷うようなそぶりを見せると、サーベルのビームを切ると、また、高く舞い上がった。 そして、その機体は白い闇の中へと姿を消す。 「見逃して、くれたのか?」 それを、クロスはただ見送ることしか出来なかった。 『そう・・・それでいいよ、リーン。私を守るために、リーンに人殺しなんか、してほしくなんかない・・・』 「やっぱり・・・レナ・・・なのか?」 再びリーンはレナの姿を見たような気がした。 そのレナは、どこか悲しげでもあった。 あの時見た、夢と同じように。 「助けを求めているのか?僕に・・・。でも・・・」 どうすれば助けられるのか、その答えは、まだ、彼の中にはなかった・・・ |