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「ユーラシア連合空軍所属、ユウ・ムサシ曹長。あのJOSH-Aの数少ない生き残り、か・・・よくあの中を生き延びたものだ。」 呼び出されたユウにまずかけられた言葉は、以外にもそんなねぎらいに似た言葉であった。 あの最後の爆発により、結局彼の機体、スピアヘッドという名の戦闘機は、バランスを失い海に落下した。 だが落ちたのが海であったのと、失いかけた意識の中、それでも最後まで何とか機体をコントロールしようとした彼の努力が、結果的には彼自身の命を救った。 落下の衝撃で機体は大破したものの、一命を取り留めた彼は付近を航行していた友軍の艦に拾われ、そしてここグリーンランドに移送された。 彼が戦っていたアラスカのJOSH-Aに代わる、地球連合軍の新しい本部が据えられたこのグリーンランドに。 そこには、作為的な何かが感じられた。 爆発の影響ギリギリの所に、友軍の船がいたというのも、偶然と呼ぶには、あるいは幸運と呼ぶには、あまりに出来すぎな話である。 そのおかげで命を救われたユウにしてみれば、皮肉な話であったかもしれないが。 もっとも、このときのユウはもちろん、そんな疑念など微塵も抱いていない。 このとき彼にとって大事であったのは、彼自身の命が助かったという、まずはそのことである。 半ば敵前逃亡にも近い撤退を責められるでもなく、助かったことに対するねぎらいまでかけてもらえれば、そこにあるのは安堵の気持ちだけであろう。 無論多少気持ちが落ち着いてきもすれば、色々と考える余裕も出来たのかもしれない。 だが、 ユウが疑念などを挟む間もなく、あの事件がおきる。 ザフト軍のパナマ襲撃・・・当初の攻撃目標と目されていたパナマでの、そして、ユウの愛した少女がいるはずの、そのパナマでの、惨劇と呼ぶに相応しい、あの事件が・・・ ![]() Phase-1 転機 ‐PhaseShift‐ 実の所、ユウはその凄惨な現場をその目で見てはいない。 それはある意味では良かったことなのかもしれない。 その光景が彼にもたらすものは、圧倒的なまでの絶望でしかなかったであろうから。 見ていなければまだ、淡い期待を持つこともできよう。 もっともそれが無駄なことであることを、彼自身よく分かってもいたのだが。 地球軍の最重要拠点であったアラスカは壊滅した、基地内部に入り込んだ、敵‐ザフト軍‐もろともに。 ザフト軍の攻撃による基地の崩壊、地球上の、連合に属する国々に対する表向きの発表はいずれもそのようなものであった。 その発表がいかに欺瞞に満ちたものであるか、だが、それを知るものは、今はまだ、その声を上げられる状態にはなかった。 ユウのように、その目で見はしても、まだ、考える余裕もないもの、あるいは真相を知りながら、いや真相を知るがゆえに、今はまだ身を潜めなければならないもの。 一方の当事者であるザフトさえ、混迷の中にあり自らのその身を確認することで精一杯であれば、連合の発表に対する異論を唱えている余裕さえなかった。 あるいはもう、そんな”些細なこと”はどうでもいいのかもしれない。 彼ら、いやザフトを統べるパトリック・ザラにとって大事なのは、もはや目の前の事実だけであり、”連合にしてやられた”という事実を前にして、その仕返しをすることしか、頭にないのかもしれない。 そしてそれは、前線で戦うものたちも、同じことであった。 そのタイミングでの、ザフトのパナマ侵攻。 それはもはや、戦争とも呼べない、復讐、私闘という名の、虐殺でしかなかった。 だいたいが人種間や民族間による対立、争いというものは、歴史を振り返ってみてもこと凄惨である場合が多い。 互いの主義主張、領土、経済、言ってしまえば政治向きの問題であれば話し合いによる落としどころ、というものもあるのだが、種族間の争いというものは突き詰めてしまえば互いの存在そのものが問題であり、究極的にはどちらか一方、あるいは双方が消えてなくならない限り、争いの種というものはなくならない。 無論、それでも言葉が通じる以上、どこかに落着点というものはなくはないのだろうが、事態がエスカレートしてしまえば、それもかなわない。 どれほどの説得力のある言葉を用意しても、聞こうともしない者に、その言葉は決して届きはしない。 そうなってしまえばその先にはもう、絶望しか待ってはいない。 そして、状況はそうなりつつあったということなのだろう。 地球連合とプラント側ザフト軍との戦いは、すなわちナチュラルとコーディネーターとの戦いであった。 生まれながらにして遺伝子操作を施されたコーディネーターと、それに対し、自然のままに生まれてきたナチュラル。 倫理観という建前と、劣等感という本音からナチュラルたちはコーディネーターに対する対抗意識を持ち、コーディネーターもそれに反発した。 それが、この戦いの、表向きの、概ねの原因である。 『我々と奴らは違う。』 それは互いの軍の上層部が、それぞれ等しく口にする、この戦いのお題目であった。 だが、同じ言葉を口にして、同じように力にだけ依存して、何がどう違うというのだろう。 漠然と、ユウはそう考えてみる。 だがそれは彼女の"死"という現実から目をそらそうとする行為でしかなかった。 パナマは陥落した。 投降を申し出たものすら、それを認められず虐殺され、ほぼ全滅に近い有り様だと、そんな噂レベルの情報だけが、ようやく自力で立って歩けるぐらいまで回復した彼の耳に飛び込んできた全てであった。 噂はあくまで噂でしかない。 だが、それを否定する要素も今の彼は持ち合わせてはいなかった。 そこから導き出される結論は、一つしかない。 「死んだのか・・・あいつが・・・。」 呟きながら、だが彼の思考はそれを認めることを拒否する。 だから、考えてみるのだ。 なぜこんなことになってしまったのかを。 いっそ敵を、ザフトを、コーディネーターを恨んでしまえば、まだそのほうが気が楽であったのかもしれない。 ザフトがパナマでしたように、あるいは今回のザフトの行為に怒りを振るわせる多くのナチュラル、同胞たちのように。 だが、本能的にユウはそれもまた、拒絶する。 それだけの理由が、彼にはあった。 彼には、コーディネーターを憎むことが出来ない、理由があった。 だから、やはり、考えるしかないのかもしれない。 いや本当は、考えるまでもない話ですらあるのかもしれない。 恋人を失って、彼女をコーディネーターに殺されてもなお、敵を憎むことが出来ないユウと、盲目的に違いを憎みつづけるものたち。 その差がどこにあるかを考えれば、答えはおのずと導き出されるだろう。 人が皆、ユウと同じ想いを抱くことができれば、戦いなどは起きはしない。 皆にその気持ちをわかってもらえれば、この戦いは終わるのかもしれない。 つまり、そういうことなのだ。 けれども、 どうすればそんなことができるのかわからないし、方法があったとておそらく彼にはそんなことは出来はしない。 だからまた、ユウは考えるのだ。 彼女の死という現実から、逃れる為に。 実の所、彼は一つの思い違いをしていた。 彼のその思いの根底にあるもの、それは決して間違いではないが、だが、完全な答えでもなかった。 まだ・・・ やがてユウは知る。 彼の目の前に、白いモビルスーツが舞い降りる、そのときに・・・ |
| ユウ・ムサシ |
本編の主人公。 ナチュラル。 ユーラシア所属の21歳の青年。 特に秀でだものがあるわけでもない、ごく普通の青年でしかないのだが・・・ 性格は温厚で物腰は柔らかいが、その奥には芯の通った強さも持ち合わせている。 もっとも恋人を"失った"ことで今は深い絶望と混乱の中にある。 イメージボイスは瀧本富士子(まほろまてぃっくの優、この醜くも美しい世界のリョウ等 )。 |
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F-7D スピアヘッド |
地球連合の多目的制空戦闘機。 JOSH-A戦においてユウが搭乗した機体であり、また図らずもユウの命を救った一人の士官(別名"どっかの馬鹿"(^_^;)))が乗って飛び出していったのもこの機体。 ユウ機には彼のパーソナルマークである四つ葉のクローバーが描かれている。 ある意味主役機・・・でも多分この先活躍することもないだろうなあ。 |