![]() 「久しぶりですね。」 機上から下を眺め、山岸マユミはそう隣の女性に話し掛けた。 「そうね。」 そう答えるとなりの女性、惣流アスカは少し不機嫌そうであった。 「どうしたんですかアスカさん?」 心配そうにアスカの顔を覗き込むマユミ。 「別に。」 「せっかく久しぶりの日本なのに。」 「日本だからって別段いいことがあるわけじゃないもの。」 ハァ、とため息を吐くアスカ。 怪訝そうな顔をしながらも、久しぶりの故国に胸が躍るマユミ。もっとも彼女がはしゃいでいる理由は別にあったが。 「皆さん、迎えに来て下さるんですよね。洞木、あ、鈴原さんとか、…碇、君とか…。」 ちなみにこの時、まだ彼女はシンジの結婚を知らない(アスカが教えてないからである。教えてやれよ・・・)。 行く手に不幸が待ち受けているとは、全く知らないマユミであった。 話は半月程前に溯る。 「学会、ですか?」 マユミは教授に呼び出されていた。 「ほんとなら私がいかねばならんのだがな、忙しくて手が離せんのだ。一応君も共同研究者ということになっとるし、代わりに研究発表、ということで行ってきて欲しいのだがな。」 果たして彼らの研究がいかなるものか、それは謎である、がマユミとしては甚だ困ったことであった。 元々彼女は人前で話すことが極端に苦手であったからだ。 とはいえ、教授の頼みとあらば断ることはできない。まあ、学会が開かれるのは日本ということもあるし、久しぶりの里帰りの機会をくれた、という教授なりの配慮もあるのだろう。 ひとまずマユミはアスカに相談することにした。 果たしてアスカが相談相手として適任かどうかは疑問であるが。 「ふーん、あ、そう。」 大方の予想通り、アスカはマユミの悩みなどまじめに聞く様子はない。 「いいじゃん、里帰りのつもりで行ってくれば。あんたこないだの正月も帰ってないんでしょ。」 「はあ。」 マユミが帰れない原因を作ったのは実は、例によって、他ならぬアスカなのだが、当然、そんなことは気にも留めない。というよりはなから考えてない。 「あのー、アスカさんも一緒に来てもらえますか?」 「へ?」 唐突に話をもっていかれ、間抜けな声を出すアスカ。 「あ、でも、忙しいし。」 どうやら行きたくないらしい。 「教授に許可はもらってあります。」 案外抜け目ないな、この娘。 「ぬぅ」 と唸ったっきり、黙ってしまうアスカ。よっぽど行きたくないらしい。 しかし、教授の許可が出ている、ということは逆に言えば行ってこい、ということでもある。 さすがに教授には逆らえない。(アスカなら逆らいそう、というか常に言うことを聞かなそうだけど) 渋々ながらも、アスカは日本行きに同意するのであった。 そんなわけで、彼女たちは日本へと来ていた。 さて、新東京国際空港へと降り立ったはよかったが、どうやら渋滞に巻き込まれたらしく、肝心の迎えが来ていない。 「あのー、俺はいるんだけど。」 「ケンスケだけじゃあねぇ。」 「悪かったな、第一どうせシンジはこないよ。」 「「なんで!?」」 思わず叫ぶアスカとマユミ。 その迫力にたじろぐケンスケ。 「い、いや、今シンジは病院に。」 「碇君、どこか悪いの?」 「そういうわけじゃ・・・ウワッ、」 アスカに胸座を掴まれ、慌てるケンスケ。 「どこっ?」 「え?」 「病院の場所よ!」 「あ、ああ。」 アスカの迫力に押され、病院の場所を教えるケンスケ。 しかしアスカは相変わらず人の話を聞かんなぁ。 「行くわよ!」 場所を聞くや否や飛び出していくアスカ。 「あ、私も行きます。」 マユミもそれに続く。 「おーい、トウジたちもくるんだけどなぁ」 ケンスケだけが、そこに取り残された。 「碇君、大丈夫なんでしょうか。」 「さあね。」 本当は1人で行きたかったのだが、さすがにそういうわけにもいかない。 「こないだ会った時は元気だったのに・・・」 「そうですか・・・っていつ会ったんですか!?」 こないだマユミちゃんが徹夜していた時である。 「酷いですアスカさん。」 「うるさいわね!だいたいシンジはアタシに会いに来たんだからいいの!!」 確かそうではなかったような・・・ 「だいたいアンタがいる事なんてシンジは知らなかったんだからしょうがないでしょ。」 「はぁそうですか。」 うまく論理をすりかえたな。 「碇君・・・」 窓の外を見つめ、心配そうな顔をするマユミ。 「なんかむかつくわね。」 さてそんなこんなで病院に着いたアスカたち。 一目散に病室へと、あ、病室の場所を聞いてない。 アスカもそれに気付くが、さすがに空港まで戻るのはかったるい。 仕方ないのでところかまわず、病院中をシンジを探し回る。 えれえ迷惑な奴だ。 あんまり迷惑をかけると邪悪獣(byライジンオー。古いなぁ)が出てきちゃうぞ。 良識派のマユミはとりあえず他人の振りをし、受付へと行こうとする。 てゆーか普通はそうするだろう。 だが、 「いたっ、シンジッ!」 恐るべき野生の勘。 「女の勘といいなさい。」 はいすみません。 とにもかくにもシンジを見つけたアスカ。 仕方がないのでマユミもそれに続く。 「あ、あれ、アスカ!?」 突然のアスカの来襲、もとい登場に驚くシンジ。 そして、 「山岸・・・さん?」 「碇君・・・」 見詰め合う二人。 おいおいシンジ君、浮気はいかんぞ。 「ハイハイ、そこまで。」 割って入るアスカ。 「酷いですアスカさん」 「だまらっしゃい。」 「しくしく。」 「で、シンジ、あんた入院してたんじゃなかったの?」 ほんとに人の話を聞かないな。しかもマユミの事をしっかり無視してるし。 「あ、僕じゃなくて・・・」 「なに?あの女なの?」 「うん。」 「誰です?あの女って。」 「あんたにゃ関係ないわよ。」 いい加減教えてやれよ。 『なるほどね。あの女が。不治の病にかかって危篤状態だったとは。』 だから誰もそんなこと言っとらんちゅーに。 『ここで手術が失敗し、落ち込むシンジをアタシが慰める。そして・・・』 既に妄想の世界へと突入しているアスカ。 「でもここって・・・」 対照的に思いっきり不安そうな顔をするマユミ。なぜかって? 「手術室でしょ?」 実は分娩室と書かれているのだが、生憎アスカは漢字を読めなかった。 カルテはともかく、病院内の表示までドイツ語で書かれてるわけないもんなぁ。 そんなことをしてるとランプが消え、中から医者が出てくる。 「先生!」 医者に詰め寄るシンジ。 「大丈夫、元気な男の子です。」 「はあ?」 思わず固まるアスカ。 マユミのほうは多少予測がついたようだが、実のところアスカよりもショックであった。 「碇君って・・・、結婚してたんですか?」 ちょっと涙目。 「え、あ、うん。」 照れながらもはっきりといいきるシンジ。 「紹介するよ。僕の、奥さん。」 当然そこには、生まれたばかりの我が子とともに、マナがいた。 「あ、アスカさん、わざわざ来てくれたんですね。」 そんなわきゃないでしょ。 「そちらの方は?」 マナはマユミのほうへと目をやる。 「昔のクラスメートで、マナが転校してきた後にうちの学校に来て、すぐに他の学校へ行っちゃったけど、あの、山岸マユミさんって言うんだ。」 「ふーん。」 ちょっぴり嫉妬のこもった目でシンジを見るマナ。 「ち、違うよ。山岸さんとは何ともないよ。・・・僕が好きなのはマナだけだよ。」 シンちゃん、それはとどめって言うんだよ。 「う〜ん。」 そのままマユミは気を失ってしまった。 追記 多大なショックを受けたマユミの研究発表は、散々なものだったそうな。 追記その2 一番迷惑を被ったのは、成田まで(当然アスカに)呼び付けられた挙げ句、肩透かしを食った鈴原夫妻であった。 |