1999/12/03 10:45:35現在

書評日記

過去の記録
1999.6.13 日本人の英語
1999.6.23 障害学への招待
1999.7.12 障害者差別の社会学
1999.8.5 手話・日本語大辞典
1999.8.10 もうひとつの手話
1999.8.28 史上最大のミステーク
1999.?.?? ファイト!
1999.11.10 聴覚障害者の心理臨床

精神科に行こう!
大原広軌著 藤臣柊子マンガ
 情報センター出版局 1999年 1,200円+税
ISBN4-7958-2932-2

【要約】こころの病気は精神科にかかる。この当たり前のことがなかなか出来ないのは、精神科及び精神障害者に対する偏見が壁となっているからである。本書は、その偏見を持ったフツーの人間が発病したとき、精神科がいかにフツーの病院であるかの発見を中心に記述された。漫画家と編集者という立場が本書を読みやすくしている。


漫画家と編集者

 本書は、漫画家と編集者がともに自分自身の精神科受診体験をつづった読み物である。最初、漫画家が発病。

こういう書き出しのマンガで本書は始まる。そのあと、編集者が発病。パニック・ディスオーダーという病気である。漫画家の方は、最初はうつ病であったが、あとでパニック・ディスオーダーも発病している。この漫画家、以前はよく見かけたのであるが、ある時パッタリと見なくなったと思ったら、病気になっていたのであった。書店で見つけた表紙には、なつかしいキャラクターが元気に暴れていた。

精神科への偏見

 以前ほどではないにしても、この日本社会には精神障害者や精神病院などに対する偏見が根強い。いわゆる「キチガイ」という差別語でもってその人間を社会的に葬り去る方法は依然有効である。
 しかし、精神病は誰でも発病する可能性があるものなのだ。どんな人間であっても、家系を精査すれば、身内に身体障害者や精神障害者は必ず存在している。風邪をひかない人間がいないように、精神的に不安定にならない人間はいない。
 一般的に人々はこのことを頭では了解していても、自分自身にふりかかってくるものとは思っていない。思わないまま日常生活に追われている。作者の漫画家自身も「わしは突然こわれた」と表現している。
「ストレスが溜まっている」
と口にする人が非常に増えた。しかし精神科を勧められると、
「いや、まだそこまでひどいレベルじゃないから」
と引いてしまう人がほとんどだろう。以前ほどではないにせよ、精神科に通う、ということに関して抵抗を持つ人間は多く、また様々な偏見がぬぐいきれていないことも事実だと思う。『黄色い救急車』なんて言い方がいい例だ。
 私の場合も、自分が精神科に通うことになるなど考えたこともなかったし、あれだけの奇行をくり反しながらも、
「なんでオレがそんなトコ行かなきゃなんないワケ?」
とも思った。
同書pp.8-9
 この編集者の病気は、パニック・ディスオーダーという。どんな病気か。医者に言わせると、伝統的精神病(分裂病や躁鬱病など)に比べると軽いものらしいが、本人にとってはとてもつらい。つらいのでとりあえずは病院に行く。内科だ。そこでいろいろと検査を受けるが、異常ナシと言われ、釈然としないまま病院を転々としたり、さまざまな療法にすがることになる。
 編集者の場合は、心臓が異常に動悸をうつ、怒り狂う心臓、手足が震えるなどの症状が出たそうである。死にそうなほどの症状であったと書いてある。しかし内科医では解決しないどころか、甘えではないかと言われた。それでも精神科という道を選ばず、酒に逃避したり、スポーツに逃避したり、飲尿療法やらお祓い療法やらコーヒー断ちやら…。

ラクになる

 一向に良くならず、仕事にも差し障りが出始め、人間関係も限界に近づいて、どうにもならなくなった時、とうとう社長に言われて精神科に行く決心をする。
社長に精神科行きを提案された日の夜、精神病の先輩、鈴木に相談の電話をかけた。
「お前、アホか。いまどきいきなり隔離病棟に連れ込むような病院があるわけないだろ、お前みたいにステレオタイプで精神科のこと考えてるヤツがいるから、いまだに『忌み嫌うべき場所』みたいに思われるんだよ」
すすんで行きたいと思う場所ではないと思うけど…。

 かつて、『カッコウの巣の上で』という映画を爆笑しながら見ていた私だったが、まさか自分がその巣の上に登る日が来るとは、夢にも思わなんだ。

同書pp.109-110
 初めて入った精神科外来の待合室は、他の科と同じような普通の人がいた。もちろん、落ち着きなく歩き回る人や、中空に眼をやりつづけている人などはいるが、著者が言うように「基本的に他人に危害を加えるような行動ではない」。著者は、このことに改めて気づき、自分のうちなる偏見を自覚しはじめた。
…もっと意味なく怒り狂って暴れているオヤジや、ギャーギャー泣き叫んでいる女の子、はたまたヒタイに『肉』などと書いて走り回っている人間で埋めつくされているものだとばかり思っていたからだ。
 冷静に考えてみれば、いくら精神病院といったって、外来にそんな人間がいるはずもない。外科病院の待合室に、飛び出してしまった腸を、ムリヤリ体内に納めようともがく人間がいないのと同じことだ。改めて自分のステレオタイプぶりを思い知らされた瞬間でもあった。
同書p.112
 精神科医の診察を受け、その診察ぶりにも感動し、処方された薬が劇的に効果を現わしたこと。翌日には、「頼まれることすべてに、『庄や』の店員状態で対応する私がいた」と著者は表現している。いままでの、さまざまな療法に頼った苦労はなんだったのかという、眼からうろこ状態である。とてもラクになった。小さなクスリひとつで症状が劇的に軽減したのである。

 病気になれば医者に行く。当たり前のことである。その当たり前のことが、精神科の場合は、社会的偏見が壁となって実行しにくくなっているのである。まずは、医者に行くことである。本書は、その敷居を低くするために、大変効果がある。

 心の具合がおかしいと思ったら、気楽に精神科に行こう。
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