7月16日(金)エネミイ
ひさびさ、心をガシっと掴まれる舞台を観ました。
新国立劇場『エネミイ』。
そもそもチラシを見てダンナが「鈴木裕美の演出だ!」というので観ることにしました。
鈴木裕美さんはジテキン(劇団自転車キンクリート)の演出家。昔はよくジテキンの舞台
も観てました。
脚本は蓬莱竜太。蓬莱さんの名前はなんとなく知ってました。昨年、岸田國士戯曲賞を受賞。
期待の若手作家であり、モダンスイマーズという劇団の座付き作家兼演出家。
舞台は。。。。
30過ぎてコンビニ勤めの息子(高橋一生)は、小遣い稼ぎのため、夜な夜なネットゲーム
で『敵と戦う』。
会社で「人切り」(リストラ)の仕事をしていた父親(高橋長英)は、まもなく定年を迎える。
そこへ父親の学生時代の仲間2人(林隆三、瑳川哲朗)が40年ぶりに会いに来る。
60年代後半〜70年代、ともに学生運動で戦った同志。父親は学生運動から足を洗い
サラリーマンになったが、やってきた2人は今でも活動家だ。
当時のことを話す彼らに対し、息子は「盛り上がってたんだね」と言う。それに対し「いや、
戦っていたんだ」と。
あの時代のことを、私はニュースでしか知らないが、確かに彼らは「戦っていた」。
セリフの中で『三里塚』というワードが出てきたので、ネットで調べました。
『三里塚闘争』ってありましたね。成田空港の建設に反対していたんだよね。
いまや海外旅行で、成田空港にはさんざんお世話になっているので、なんか奇妙な感じがし
ます。今でも三里塚には活動家がいるそうだ。
『革マル』『ベトナム戦争反対』....そんな単語がネットに並んでました。
今でも「戦う」人たち、かつては「戦っていた」父親、そして「ゲームで戦う」息子。
それぞれの葛藤がていねいに描かれていて、とても面白かった。
コンビニ勤めの息子は、頼まれて勤務のシフト表を作っているが、うまくいかない。
夢ある若者、リストラされてしまった人、家計を助ける奥さん...それぞれに
事情を抱えている。みんな働きたい。彼らに配慮し、シフト表作りに苦労する彼。
その思いのたけをぶちまけるシーンは圧巻だ。観ていて涙が止まらなかった。
フリーターみたいなバイト生活している若者も、一生懸命生きている。頑張ってる。
でもなかなか報われない。評価されない。そんな心の叫びを聞いたような気がした。
現代は戦う相手を見つけられないまま、若者たちは戦うことをしなくなった。
「人はなぜ戦うのか」...新国立劇場が今シーズン掲げたテーマだ。
60〜70年代の若者の戦いとはなんだったんだろう。
父親(高橋長英)がかつての同志に投げかける。
「結局、戦って何か変わったのか、何か得たのか。何もないじゃないか!」
かつての同志(林隆三)は切り返す。
「じゃあそういう、昔と同じことを言ってるお前は、普通に卒業して会社に入り、こうして
定年を迎え、そして何を得たんだ?」
作品名の「エネミイ」だが、Enemyとは英語で敵。逆から読んで「意味ねえ」になるということ
で、「エネミー」ではなく、わざわざ「エネミイ」にしたそうだ。
この芝居は、かつて戦っていた人たち、戦いをニュースで知っている人たち、今の若者
たち、みんなに観て欲しいなあと思いました。
いろいろ考えさせられる、いい舞台でした。
蓬莱さんのキラキラした才能に脱帽です。たまたま同時期に青山円形劇場で蓬莱竜太作・
演出のモンダスイマーズの舞台があるので、こちらも見に行くことにしました。
By Toshiko