たまにデパートやスーパーなどの催し物会場で、桐たんすの削り直しという
のを目にしたことがありませんか?
大抵『こんなボロい箪笥が、こんなにキレイになります』というような紹介
です。
実は先週末、実家のリフォームのために、ピアノや母の着物などを実家から
我が家へ引き取る際、どうしようかと悩んだのが、昔からあった桐たんすで
した。
いざ引き取ろうとして、よく見たら、扉は割れていたり、金具がはずれて
いたり、背板はヒビ割れていたり...と、かなり悲惨な状況。
あまりにボロいので、一時は粗大ゴミで捨ててしまおうかとも思ったので
すが、母が愛用していた箪笥だし、母の着物もたくさんしまってあったの
で、捨てるにしても、とりあえずは我が家へ一旦引き取ってからにしよう
と思いました。
とにかくボロかったので、電話帳で探したいくつかの『桐たんす削り直し』
業者に電話をしました。だいたい、一般的な削り直しで10万位〜が相場
のようです。
そんな中、春日部にある桐たんす専門の業者が『では、見積もりにお伺い
します』と先週末やってきました。
やってきたのは、60歳前後の職人さん。
箪笥を見るなり『これは昭和28年〜32年頃のものですな』と一言。
これには、ビックリ!まさに母が結婚した時期です。この桐たんす、母の
嫁入り道具だったんですね。(初めて知りました...)
なんでも、そのデザインで、いつ頃のものかわかるんだそうです。
そして、こうした桐たんすは、手入れをすれば、更に50年から100年
は使えるようになると言うのです。
今でも明治時代(100年以上も前)の箪笥を修理することもあると言っ
てました。
現在、売られている桐たんすは、安いものでは40万くらい。しかし、
そうした安いものは中国製で、国産だと80万〜180万くらいするとの
こと。やっぱり国産のものは作りが良いので長持ちするらしいです。
こうした桐たんすの修理方法には2通りあって、表面の桐の板を削る方法と
表面の桐の板だけ新品に取り替えるという方法があるそうです。
当然、削る方が取り替え方式より値段は安い。
さて母の嫁入り道具だった桐たんすですが、ヒビ割れてしまった扉や引き戸
は取り替えることになりました。なるべく安くということで、削り直し+
取り替え費用で13万という見積もりがでました。
しかし、この当時の扉のデザインは、ヒビ割れし易いということで、取り替え
ることになった扉は、シンプルなデザインに変えることにしました。そうなる
と、ヒビ割れてない中央の扉とデザインが変わってしまう...
そこで、職人さんは『う〜ん...』と悩んでました。
私が一言『そうすると、上の扉と中央の扉のデザインが変わってしまって、
バランスが悪いですかねぁ』と言うと、職人さんが『そうなんですよ。でき
れば中央の扉も取り替えさせてもらえませんか』
...なんとなく気持もわかる。自分のやった仕事として箪笥が出来あがっ
た時、扉のデザインがバラバラなのは職人さんとしては納得いかないだろう。
そこで、中央の扉交換と合わせ、割れていた背板もベニアでなく桐板に替えて
もらう、というおまけ付きで20万ということになりました。
大金ではありますが、新しい桐たんすを買うよりは安いし、この後50年持つ
(と言ってもその頃まで生きてるかどうかわからないけど)なら安いか?
彼は、後10年もすれば、桐たんすの職人は居なくなってしまうだろうと言
ってました。若い後継者が居ないんだそうです。
古来の桐たんすの製造や削り直しという日本工芸がなくなってしまうのは、
もったいないし、残念な気がする。でも、こればかりは需要と供給の世界だ
から致し方ないのか..
亡くなった母の箪笥を引き取ることがなければ、私も桐たんすについて知る
こともなかったでしょうから。
彼は、最近のたんすはプラスティックのネジが使われるが、昔の箪笥の修理
には木ネジを使うのだとか、安い箪笥だと接着してしまうが、昔ながらの
箪笥は組み木になっていて丈夫なんだとか、箪笥についての熱い想いを語って
くれました。
最後に、乗ってきたトラックに箪笥のサンプルがあるから是非見て欲しいと言わ
れ、漆を塗った桐たんすや、明治時代の箪笥の修理過程がわかるようになって
いるサンプルなどを見せてもらい説明を受けました。
なんだか桐たんすに一生懸命で、『職人さん!』という感じでうれしくなり
ました。
修理には2ヶ月くらいかかるそうで、年明けくらいには出来上がってくるよう
です。
By Toshiko