初 恋 2
― ハツコイ 2 ―


綺麗な顔立ち、綺麗な手、綺麗な立ち姿、ほんとに綺麗な………男っつーのが詐欺だよな。

溜息をつきつつ、捲簾はノックしても返事のない、その綺麗な男の部屋の扉をそーっと開けた。
なんせ、そーっと開けないことには、何が流れ出してくるか分からないのだ。この部屋は。
綺麗な外見に反して物臭で面倒臭がりやの部屋の主には収集癖があった。
大半は本である。が、たまにどう見てもガラクタにしか見えないモノもあった。
それが、流れ出してくる恐ろしさは体験したものでないと分からない。
たまに、部屋の主ごと流れ出してくる。そして、自分も巻き込まれることになりかねない。

前に、どうやって持ち込んだものやら分からないケン○ッキーのケ○タッキーフ○イドおじさんと、
なぜか呼ばれてしまうカーネルサンダースが本に埋まって流れ出し、
大慌てで医務室へと運んだ慌て者の部下もいたくらいである。
確かに白い服を着ているし、いつも白衣姿の部屋の主と間違えるのも致し方ないだろうが、
切羽詰った顔でほがらかなマネキンを差し出された軍医はさぞかし困惑しただろう。

本雪崩を起こさないように、そーっと中に入り、部屋の主を探す。
といっても、どうせいつも同じ場所で本を抱えてトリップしているのだが。

「あれ?」

覗き込んだ先に探し人はいなかった。
どこにいったのかとぐるりと見渡した捲簾の鼻先に見事な薔薇の花が咲いていた。

「なにやってんの、お前?」

薔薇の花束を手でどかし、花束を持ったままの探し人に問い掛ける。

「捲簾、好きです。」

にっこり微笑まれて、眩暈を起こしそうになった。

「………誰に吹き込まれた?」
「あれ? 気に入りませんか? おかしいなぁ、告白ってこうするものじゃないんですか?」
「確かに間違ってねぇけどなぁ。俺は男でお前も男で、で、なんで、告白なんだよ?」
「じゃあ、プロポーズでv」
「なお、おかしいだろうがっ!!」

ゼェゼェと肩で息をする捲簾に、天蓬は不服そうに薔薇の花束を机の上に投げ出した。

「そういうことは、女とやれ、女と。」
「捲簾がいいんです。って何度も言ってるじゃないですか。」
「ああ、そうね。確かに何度も何度も聞いたけど…よ。」

思い出した事柄に口許を手で覆う。

「それに、良かったでしょ?」

捲簾が何を思い出したかを知っているかのように、くすりと笑われて、カッと顔に朱が散る。
なんで、俺がこんな目に合わなきゃならないんだか…。

「ほんとに捲簾は我侭ですね。でも、頑張りますからねv」

にっこり微笑む綺麗な男に、捲簾はげんなりと肩を落とした。
なんで、軍議に迎えにきただけでこんなに疲れなきゃならねぇんだろう?
深々と捲簾は溜息をついた。



煽ったのは俺なの? ねぇ? 挑発したのって俺なの? ねぇ?
ものすっごく不本意な事柄に溜息すら出ない。
俺の馬鹿………。
肩をがっくり落として歩く捲簾大将というのは珍しい。

と、頭上からパラパラと何かが降ってくる。
なに?
掌にはお米が数粒転がっていた。
はい〜?
訝しげに頭上を仰げば、そこには小さな籠からパラパラとお米を撒いている一人の男がいた。
今現在の悩みの種である天蓬元帥その人だった。

「今度はなんだ?」
「ライスシャワーって知ってます?」
「はぁ〜?」
「捲簾、好きです。」

綺麗な微笑みと共に言われた台詞に怒鳴り返す。

「そんなモン、知るかっ!!」

とたんに、真顔になった天蓬が引っ込むと、ドザザザザザザーーーーーーーーーッ!!
というものすごい音と共に、米が大量に捲簾に襲いかかってきた。
どうやら、天蓬は米袋を脇に置いて、籠に移してから撒いていたらしい。
米の滝に打たれた捲簾の頭上にバサリと米の袋が落ちてきて、スコンと籠まで投げつけられる。

「負けませんからねっ!!」

の捨て台詞と共に姿を消した天蓬に、しみじみと捲簾は呟いた。

「アイツほんとは俺のこと嫌いだろ?」



疲れる、疲れる、すっげー疲れたっ!!
なんで、俺が歩く場所が分かるんだ、アイツはっ!!
そのたびに、まぁ、花は許そう。リボンもまぁ可愛いと思えないこともない。
なんで、猫を降らすんだっ!!
あまりの衝撃に茫然と立ち尽くす捲簾を、猫は容赦なく襲った。

猫というモノは、次の足場になりそうなところを探しながら、高いところから飛び降りるモノらしい。
その次の足場に選ばれた捲簾は、当然ながら爪を立てられ、えらい目にあったのである。

「今度やったらタダじゃおかねぇからなっ!!」

と一応吠えておいたが、どこの文献だよ。花嫁に子猫を降らすと子宝に恵まれるっつーのはっ!!
ってか、俺が子宝に恵まれてどうするよ?
ちなみに天蓬が子猫を使わなかった理由は『可哀相だから』らしい。
俺の方がよっっっぽど可哀相だろうがっ!!
お陰で捲簾の顔も腕も引っ掻き傷だらけである。

「どうしたんです、大将?!」

部下達があまりにすさまじい捲簾の姿に声を掛けてきた。

「猫に引っ掻かれた。」

猫に?!
捲簾の台詞にマジマジと捲簾を眺めてしまう。
一体、何匹の猫に引っ掻かれれば、そのものすごい爪痕がつくというのか?

「大将。猫って何匹の?」
「5匹。」

天蓬元帥恐るべし。好きな相手に5匹もの猫を投げ付けるのは世界広しといえど、天蓬一人であろう。

「大将のことだから、赤い爪の猫じゃないんですか?」

捲簾の不機嫌さに思わず軽口を叩いた部下の一人を鉄拳制裁しても、捲簾の憂いは拭えなかった。



自室に帰ってきて、ようやっとホッとする。
はっきり言って、仕事でなければ自室にこもりっきりでいたかったぐらいだ。

「捲簾さま、お届物です。」

………と、届け物………。
タラリと冷汗が背中を伝い落ちる。
なんで、届け物でこんなに嫌な気分になるんだろう?
女官に礼を言って、中身をおそるおそる開けてから、がっくりと肩を落とす。
差出人はもちろん天蓬元帥だった。

はぁ〜…『馬鹿と天才紙一重』ってマジに紙一重すぎねぇか? 

中身は普通にネックレスと指輪などなどアクセサリー品だった。
ブルートパーズ、サファイヤ、スターサファイヤ、アクアマリン、青という色にこだわったのが良く分かる。

確か、結婚するときに青いモノを身につけると幸せになれるらしい。
が、問題はその形だった。
なにも、全部を全部、ドクロにすることねぇんじゃねぇの?趣味悪すぎ。
だいたい、俺のつけてる胸飾りは単なる嫌がらせでしかないんだって。
上級神の方々はそれはそれは嫌そうな顔してくれんじゃん。
ちょっとしたお茶目なんだけどな。

一緒に入っていたカードの中には一言『好きです』。
とたんに脳裏に思い浮かんだのは、綺麗な顔。
それは、幸福そうに微笑んで、それは優しく愛おしく

『捲簾、好きです。』

ボッと顔から火を吹いた。
そんな自分に苦々しく舌打ちして、捲簾は嫌がらせとしか思えないプレゼントをそのままに、
軍服のままゴロリとベッドに横になった。

「軍服が皺になっちゃいますよ?」
「うわぁっ!!」

驚いて飛び起きる。
なに?!なにが起こった?!
慌てて声が聞こえた方に目を向ける。
布団を剥ぎ、枕を床に落とし、見つけ出したマイクにうんざりする。
が、マイクだけで横になったことが分かるはずもない。

「夜中に疲れさすんじゃねぇよっ!!」

思わず怒鳴った捲簾の部屋はしっちゃかめっちゃかで、彼の目の前には高性能の集音機が5つ。
マイクが3つ。小型ビデオカメラがなんと10。

こんなことがずーーーーーっと続くのか?
俺がOKするまで続くのか?

………………………………………………………………………もういい。

ガンと自室の扉を蹴り開けると、ドカドカと足音を立てて、天蓬の部屋へと向かう。
いつもは部屋のモノが流れ出さないようにそーっと開けるのだが、
捲簾は足を振り上げると思いっきり蹴り付けた。

ドガッシャンッ!!

と扉を壊すと大量の本とガラクタが流れ出し、
なぜか、今回はヘッドホンをつけマイクを持った天蓬がモニターと
訳の分からない機械ごと一緒に流れ出してきた。
踏みつけてやろうか? と物騒なことが一瞬、脳裏を横切る。
自分を不機嫌そうに見下ろしてくる捲簾に、天蓬がふわりと微笑む。

「捲簾、好きです。」

そんな天蓬にぶっきらぼうに手を差し出す。

「俺も。」

耳元で囁いてニヤリと笑う。それに、天蓬が驚いたように捲簾を見返した。

「いま、なんて?」
「俺も。っつたの。」
「捲簾vv」

抱き付こうとする天蓬の身体を足で止める。

「俺に抱きつきたきゃ、風呂に入れ!
俺とやりたけりゃ、きっちり髪も洗って、飯も食って、着たきりすずめだけはすんなっ!!
じゃなきゃ、触らせねぇ!!」
「あはははははは、努力はしますが、全然、自信ないですv」

きっぱり言い切った天蓬からヘッドホンを放り投げ、マイクを取り上げると襟首を引っ掴む。
流れ出している意味不明な機械やら大量の本やらガラクタやらを器用にさけて部屋に入ると、
天蓬をソファに投げ出す。
風呂の用意ができたところで、天蓬を浴室へ突っ込んだ。浴室の扉を閉めて肩を竦める。

「躾がいがあるっつーより、手間の掛かるペットを拾ったってとこだな。」

………そして、それを嫌がってねぇってのが重症だよな。決して天蓬に言う気はないが………。

「まさか、男に堕ちるとはね。この俺が。しかも、年下だし。」

それでも、『ま、いっか。』などと思ってしまう自分に苦笑する。



捲簾大将の『ま、いっか。』はこの先の口癖になった………。


                                       ちゃんちゃん。


   オ・マ・ケ 〜某同士の方々に捧ぐv(主催者含。笑)〜


明けて翌日の夜、自室に帰った捲簾がしたことは部屋の家捜しである。
昨日のしっちゃかめっちゃかは昨日のうちに片付けられていた。
そして、今日も部屋をしっちゃかめっちゃかにしつつ、ホッと安堵の息をつく。
取り合えず、小型ビデオカメラも集音機もマイクも付けられてはいなかった。
天蓬のストーカー行為は、取り合えず回避できたと最後に寝室に向かい、そこで固まる。
ベッドのアノこんもりした山はなに?
分かりたくないけれど、分かってしまった捲簾が布団を剥ぐと同時に怒鳴りつける。

「なんで、お前がここにいるっ!!」

布団の中には予想通りというか、やっぱりというかな、
にっこり笑顔で自分に向かって手を差し出している天蓬がいた。

「あはははは、夜這いにきちゃいましたv」
「そんなことを笑顔で言うな。」

がっくりと肩を落としてしまう捲簾を誰が責められようか?

「ってか、どーやって入ったよ?」
「ああ、コレでv」

自分はきっちり鍵を閉めて出て行ったはずである。
いつもはどうせ、盗られるモノもねぇしと開けていくのだが、
あんなことがあったら警戒もするというものだろう。
素朴な疑問に、天蓬が差し出したのは針金でもピッキングでもない自室の鍵。

「えっ?!」

慌てて、自分のポケットを探ると同じ鍵が出てきた。
ってことは…?

「合鍵なんぞ、いつの間に作りやがったっ!!」
「えっ? 違いますよ。コレは捲簾の部屋の鍵です。本物の。」
「嘘吐けっ!!」
「本当ですよ。だって、合鍵は捲簾の持ってる鍵ですからv」
「はい?!」

また、コイツはややこしいことを。

「失敬して合鍵作ったのはいいんですけど、返すとき間違えちゃって。
でも、捲簾が気付いてないようでしたから。」
「俺のボケはいいから、そいつをよこせ。」

ったく、油断も隙もねぇな。
大人しく鍵を渡す天蓬から、鍵を受け取った瞬間に手首を捕まれ引き倒される。
不本意ながら、天蓬の胸へとダイブした捲簾が慌てて身を離そうとするのをガッチリ押さえ込み、
自分の身体の下へと引きずり込んだ天蓬を捲簾が睨みつけた。

「お前なぁっ!!」
「あれ?僕、ちゃんと言いましたよね?夜這いに来たってv」

そう言われてしまうとその通りなので、捲簾が言葉に詰まる。
チョンと捲簾に軽く口付けると、軍服をはだける。
その行為にようやっと追いついた思考が、天蓬の手を押し留めた。

「ちょ、ちょっと待て、天蓬。お、俺が下なのか?!」

確かに最初は下だったが、それは天蓬に一服盛られたからだ。
「好きです。」とそういう意味で言われて、受けた以上、腹は括っていたが、ちょっと展開が早すぎる。
まぁ、最初からにして、一服盛っての強姦と普通の恋愛とはかなりどころか一億光年ぐらいかけ離れてはいるが、
でも、どっちかといえば抱かれるよりも抱きたい方の捲簾だった。
男なら当然の心理だろう。
が、天蓬にしてみれば何を今更な感じでしかない。

「だって、貴方。僕を抱けないでしょ?」

至極当然といった顔で言い放つ天蓬に捲簾がムッとする。

「なに言ってんだ、お前は。俺が何人、女抱いたと思ってんだよ。
それに、俺の方ががたいはいいし、年も上だし、どう見たって上だろうが?」
「女性は抱いてても、男性はないでしょ?年なんて関係ありませんし、
寝てしまえば、がたいなんてどうでもいいですし、なにより僕が貴方を抱きたいんです。」

きっぱり言い切る天蓬に、捲簾は反論を試みる。
もう、この辺は意地になっている。

「お前だって男性経験ないだろうがっ!!」
「ありますよ、失礼な。」
「………………あんの?」

そこで、どうして失礼に当たるのかは良く分からないが、
びっくり仰天な展開に、捲簾に突っ込む余裕はなかった。
嫌な冷汗までもが背中を伝って行く。
やっぱり、顔が綺麗だと性別って関係なくなるのかね? 世の男共は…。
その綺麗な副官の告白を受けた人間に世の男性諸君も言われたくはないのではないだろうか?

「納得しましたねv」
「はぁ………って、ちょ、ちょっと、待てっ!!」

思わず頷いてしまってから、慌てて押し留める。
この辺り、実に捲簾は往生際が悪いというか、あきらめを知らないというか…
にっこり微笑む天蓬のこめかみにもバッテンマークが浮き上がる。

「男だったら、この状況で待てないって分かってくださいね、捲簾v」

が、分かってたまるか!!というか、分かりたくない!!
というのが捲簾の正直な心情だった。
もちろん、はなっから捲簾の言うことなど聞く気のない天蓬はさっさと行動を再開している。
決して弱くはない捲簾の抵抗を見事に押さえ込む手腕は、さすが天才軍師と言っていいだろう。
あきらかに『天才』の使いどころは間違えてはいたが。

露にされた褐色の肌に天蓬の手が滑ってゆく。
無駄な肉をそげ落とした身体は、やや痩せ気味で、だが、ビロードのように手触りがいい。
まるで、手に吸い付くような錯覚さえ起こさせる。
決して貧相ではない、しなやかな身体に天蓬は唇を寄せた。
柔らかな感触が肌に落とされ、チリッとした痛みが走る。瞬間、捲簾が眉を顰めた。
鎖骨に歯を立てられ、首筋を舌が這い耳朶を甘噛みされる。

「…………………んっ…………。」

ゾクゾクと背筋を駆け上がる感覚に耐えるように、きつく目を閉じた捲簾が押し殺した声を洩らす。
その声の甘さに天蓬は目を眇めた。
肌を滑ってゆく指が胸元の突起を押し潰し、摘むように捩れば、ヒクンと身体が跳ね上がる。
天蓬の手の感触を徐々に鋭敏になってゆく身体が拾ってゆく。
聴覚を刺激する濡れた音も、目を閉じていても感じる熱い視線も、
そのどれもに酷く反応してしまう自分がいる。
正直な身体は捲簾の心を置き去りに勝手に熱く昂ぶってゆく。

「こんなに感じ易くて、女性を抱いてるんですよね、貴方。」

揶揄されて、きつく睨みつければ、天蓬が嬉しげに笑う。

「睨みつけられて喜んでるマゾに言われたくねぇよ。」
「僕のはそんなんじゃないですよ。」

貴方が僕を見てくれたことが嬉しいだけですから。
ペロリと胸元で赤く色づく突起を舐め上げ、軽く歯を立てる。

「………っつ………。」

痛さに堪え切れず上がった声。もっと啼かせて、もっと泣かせてみたくなる。
勃ち上がりかけている捲簾自身に手を伸ばし、ゆるりと握り込んで上下に擦り上げれば、
蜜を溢れさせながら天を仰ぐ。

「身体は正直なんですけどね。」

唇を噛み締めて声を殺す相手を眺めながら、天蓬は溜息を一つ吐き出した。
強情で諦めを知らない人。愛おしくて引き裂いてしまいたくなる。
親指でぬめる先端を抉るように刺激しながら、反り返る身体を抱き締める。
くすくすと笑いながら、捲簾で指を濡らし秘所へ一本を突き入れた。
衝撃と圧迫感に益々きつく唇を噛む捲簾をそのままに、指を増やしながら出し入れをくり返しほぐしてゆく。
潤んだ瞳で睨みつけられて、乱された呼吸に吐息と声を振り零して、
反り返るしなやかな身体は桜色に上気して………美味しそうですよねぇ。
などと腐ったことを思う天蓬の心の中など分からないはずの捲簾は、悔しくて悔しくてたまらなかった。

なんだって、コイツはこんなに上手いんだよっ!!

男に、しかも年下に、いいようにされて、喘がされて、捲簾のプライドなんてとっくの昔に地に落ちていた。
それでも、天蓬は経験があるらしいので、それが慰めといえば慰めかもしれない。
女相手なら負けねぇのに。
腐った軍師に張り合わなくてもいいような気もしなくもないが、意外と負けず嫌いな捲簾は
主導権を取られたようで実に実に嫌な気分最高潮だった。
ただし、身体は快楽によって違う意味で最高潮だったが。
そして、そんなことを思っていた捲簾の身体がギクリと強張る。
自分の秘所に当たる熱い楔。
前回の凄まじいまでの激痛がありありと思い出された。
ぎくしゃくと顔を引き攣らせて天蓬を見る。
多少の痛みは全然平気だし、なにより懲罰房常連な捲簾は
ちょっとやそっとの痛みぐらいでビビることはない。
軍人でもある捲簾は痛みに案外鈍い。
が、アレはちょっとやそっとなんてモンじゃなかったのである。
生きたまま身体が引き裂かれるんじゃないかと思うぐらいの痛みは、
できるならば回避したいと誰もが思うものだろう。

「…て………んぽぅ………止めねぇ?」

取り合えず、自分の生殺与奪権をがっちり握って離す気もなさそうな天蓬にお伺いをたてると、
にっこり笑って即答された。

「絶対、嫌です。」

そうだろうなぁ。と思える自分が嫌だが、仕方がない。
自分だって綺麗なお姉ちゃんに「怖いから止めてv」と言われて
止まれる自信は欠片もないし、止める気がはなっからない。
別に俺は綺麗なお姉ちゃんじゃねぇんだけどな。
コイツの目は本当に腐ってる。
そんなことをしみじみ思いながら、今更ながらにOKしちゃった自分の浅はかさに涙も出ない。
俺、なんであんなこと言っちゃったんだろう?
今更なことをこの後に及んでまだ言うか?!と思わなくもないが、
これから自分の身に起こることを思えばちょっとぐらいの愚痴ぐらいいいじゃん。
と思えてくるから不思議だ。

「捲簾、好きです。」

耳元の甘い囁きに、捲簾は強張っていた身体から力を抜いた。『ま、いっか。』と。
後悔しているか?と聞かれれば、多分、答えはNOだから。
もしも時間が戻せても、自分が選ぶ道は絶対同じとの確信があるから。

「俺も。」

天蓬を抱き寄せてキスを一つ。
覚悟を決めた捲簾の予想以上の激痛は、残念ながら襲ってはこなかった☆

あれ?

圧迫感も痛みもあったが耐えられないほどではない。
身体から力が抜けて、緊張がほぐれていたし、天蓬にも今回は余裕があるので、
隅々までよっく慣らしたうえで、捲簾の力が抜けるように気を配っていた。
そこまでしていれば、当然といえば当然なのだが、にっこり微笑む軍師殿は全て分かったうえで捲簾に囁いた。 

「もう、慣れちゃったんですねv 捲簾ってば順応が早くて助かります。」

と。
その言葉に真っ赤になった捲簾が、俺って淫乱ってこと?
と悩むはめに陥ったのだが、もちろん天蓬は肯定こそすれ、否定はしなかったのは言うまでもなかった。

「お前さぁ、ちょ〜っと激しすぎ。」
一服しながら文句を吐き出す。
入れるときは痛くなかったのに、終わった後に腰が痛いってどうよ?
と捲簾としては思う訳だ。

「そんなの捲簾がいけないんですよ。」
「なんで?」

俺、なんかしたか?

「あ〜んな可愛い声で啼かれたら、そりゃあ、頑張りますってv」

そんなことを力説するなっ!! こっ恥ずかしいっ!!
真っ赤になって手で顔を半分覆ってしまいながら、ふと思う。

「そういや、お前の男初体験の相手って誰? 経験あるんだろ?」
「なに言ってるんですか? 捲簾ですよ?」
「はい?!」

なんで、なんで、俺って………アレかっ!! アレのこと言ってやがったのかコイツはっ!!

「じゃ、俺だって、経験あんじゃんっ!!」

一服盛っての強姦を経験に入れるか?普通っ!!

「ええ、そうなりますねぇ。」

にっこり微笑んで美味しそうに紫煙を吐き出す天蓬をギッと睨む。

「じゃ、次は俺が上な。」
「でも、僕、上の経験はあっても下の経験はないんですよねぇv」

俺だってそんな経験欲しくなかったよ。
無理矢理、経験させたのはどこのどいつだっ!!

「お前、下やる気ねぇだろ?」
「でも、S○Xのやる気はありますからv また、やりましょうね、捲簾v」
「嫌だ。」

きっぱりはっきり即答する捲簾を困ったように天蓬が見返す。

「捲簾、好きなんです。」
「………お前、確信犯だろ?」
「何がですか?」

綺麗に微笑む天蓬に溜息をつく。
なぁんで、コイツに………惚れちゃったかなぁ、俺ってば………。

「捲簾、好きです。」

もう一度の告白に苦笑しながら顔を近付ける。

「俺も。」

小さく答えてキスを一つ。
甘く更けてゆく二人の夜…。



ちなみに、夜這いもさることながら、捲簾の気付かぬところに
集音機とビデオカメラがやっぱり取り付けられていたのだが、
それは内緒の話である。



捲簾の苦労はまだまだ続きそうだった。

                                         ちゃんちゃん




<Back