愛の悲鳴
― アイ ノ ヒメイ ―


サイキン ケンレン ガ スガタ ヲ ミセナイ


と、何気なく気がついたのが一昨日。
とはいえ、近頃篭りっきりで気になる古文書に没頭していたので、
自分が考える「最近」の認識が曖昧だ。

天蓬は窓から差し込む陽の光に目を細めた。

でも「捲簾に会っていない」と思ってからこれで2度目の朝が来たので、
少なくとも3日は会っていないと考えても良い…かどうかもちょっと曖昧…

床に座り込んで机に凭れながら、そんな事をつらつらと考える。
気になりだすと他が手につかない。

「何…してるんですかねぇ?」

呟きながら、膝の上の本を閉じた。


***


今日が何日だとか、今が何時だとか、
一切お構いなしに、天蓬は捲簾の自室を強襲する。
ガチャリと寝室へのドアを開け、1歩踏み込んだところで腕を捕られた。

「…さすが捲簾大将、というところですか?」
喉元に当たるひやりとした刃の感触に天蓬は微動だにせず言った。
「…天蓬…?…」
捲簾は相手を認めると、
「んだよ、お前、こんな時間に…」
ほっと息を吐き出して捕縛の体勢を解く。
「どうした?急用か?」
驚いたように来訪の理由を訊ねながら
「つーか、危ねぇだろ?いきなり入って来んなよ。怪我させちまう…」
捲簾は短刀を鞘に収める。
「安穏な天界で、ここまでの反応する人が居るとは思いませんでしたよ」
天蓬は捲簾に振り返った。
「寝てても敵襲に備えるのが軍人さんよン?」
自分の過剰反応に照れたように、捲簾がふざけた口調で言う。
「敵襲ねぇ…」
「なーんだよ?お前だって同じ事されたら飛び起きるだろ?それ以外の奴はどうか知らねぇけど」
「相手が貴方ならベッドに引きずり込みますよ」
「あぁ?…何言ってんだよ、もう…」
天蓬の意図が掴めず、
「だから、何か用があって来たんだろ?言えよ、早く」
捲簾は用件を急かした。

『用事?…そういえば、何しに来たんでしたっけ?』
訊かれて一瞬、天蓬は自問する。
『あぁ、そういえば最近会わないから会いに来たんでしたっけ?』
すぐに浮かんだ答を口にしようとして、ふと止まる。

遮光カーテンの引かれた薄暗い室内で向かい合う捲簾は、黒ビキニ1枚の寝起き姿。
それが腕を組んで天蓬の言葉を待っている。少し首など傾げたりして…

問答無用で天蓬の下半身に血が集まる。

「け、けんれ…」
名を呼んで伸ばそうとした手の指先が、視界の中で霞んだ。
『…あれ?…捲簾が遠くなっていく…』
「うわっっ!おい、天蓬!!」

ふわふわする浮遊感の中、
「ちょっ…おい!天蓬!」
捲簾の声だけが聞こえる。
『あ〜…そういえば最近ご飯も食べてなかったですねぇ〜…』
「天蓬!」
『よく寝てなかったし食べてなかったし…』
「天蓬、しっかりしろ!」
フェイドアウト寸前、
『それで一気に血が下に溜まれば貧血にもなりますよね…』
天蓬はそこまで考えて、倒れこんだ捲簾の腕の中で意識を失った。

*

「だから!お前、一体何しに来たんだよ!」
昏倒する天蓬を抱えながら、捲簾は意識の無い相手へ不毛に問い掛けた。

【END】


バッカじゃないの〜天蓬…というか書いた私が。

えーと、コンラッドリスト20名を祝しまして、
くだらなくて申し訳ありませんが納品させて頂きます。

2003/08/24


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