天蓬の部屋。
暇を潰しに来た俺は、天蓬の執務椅子を陣取って、
机の上に脚を投げ出している。
部屋の主の天蓬は、ソファに寝そべって、
下界から持ち込んだおかしな置物を磨いていた。
別に約束も用事も無い。
互いにそのままの体勢で勝手にしてるだけだ。
手持ち無沙汰なので、会話はする。
といっても手持ち無沙汰なのは俺だけなので、振りは専ら俺からする。
何個目かの振りで好きな色を訊いたら、
「特定の色に対して特別な感情などない」
と返ってきた。
実に天蓬らしいお答えで、俺はそれなりに満足した。
すると天蓬が
「貴方の好きな色は赤と青でしょ?」
と言ったので、なぜ知っているのかと訪ねた。
「貴方のことならなんでも知ってますよ」
と微笑むので、どうせどっかで調べてきたんだろ、と思った。
どうもこいつは直接訊くってことをしたがらない。
「実は知っている」という優位性を保ちたがるなんてガキの証拠だと、
全然気づいてないだろうし、考えたこともないだろう。
こっちも別に教えてやる気も無い。
「あとね、最近は緑も好き」
かわりに他のことを教えてやる。
天蓬が首を傾げた。『そんな調書は届いてません』て顔だ。
「お前の目、緑だな〜」
座った椅子をクルクル回しながら理由らしきことを告げる。
回転する視界の隅に、困ったような天蓬の表情を捉えて、俺は少し笑った。
軽い口調とふざけた態度の俺に、どう反応していいか解らない…
そんな感じだ。
困っているところなんて見られたくないと知っているから、
気づかないふりをしてやる。
『お前はガキだ』と教えないのは、俺がそれを気に入ってるからだ。
普段は散々天才扱いされて冷徹な元帥サマに、
それくらいかわいいところがあってもいいじゃないか、
と思ってるからさ。
どうせ何倍も痛烈なセリフ返してくるんだろ?
もうちょっとクルクルしててやるから、とっとと体勢立て直せよ。
俺は天蓬の返答を想像しながら、ニヤニヤ笑った。
【END】
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