ホントの剣心  ホントの剣心しりーず


 実は、剣心はちょっと飽きていた。そろそろ、また、流れて生きたくなったのだ。

 そもそも、本当の剣心はあんなじゃない。あれは『お話』なのである。

 確かに、昔は「人斬り・抜刀斉」だったし、巴という妻も(一応)いたし、志々雄君も知ってるし・・・、おおまかには、ほぼあの通りなのではある。何が一番違うといえば、性格か。まぁ、まるっきり猫かぶっているわけでも無い。人当たり良く、情け深く、正義感が強くて、ちょっとぽ〜っとしているのは、本当の剣心もそうである。しかし、『お話』のように、あんなに悩んだりなんかはしないのだ。抜刀斉時代のコトについては整理済みだし、流浪人になったのも、単に人斬りに飽きたからなのだ。

「師匠ー、いるんでしょう?ししょー」
「うるせぇな゛〜。はっ、てめぇかよ。また、銭か?」

 剣心は流れていて、いよいよ金に困ると、清十郎のところに帰って来る。喧嘩して、清十郎のところを飛び出したのは事実なのだが、その内容は『お話』ほど立派なものではない。たしか、どちらが薪を割るかとか、そんな事だったはずだ。大喧嘩だったことだけは間違いないのだが。そんなわけで、剣心は家出をしたものの、清十郎が捜しに来てくれるはずもなく、かといってすごすごと帰るのもしゃくだ。引っ込みがつかなくなって、ぶらぶらしてたら、長州方に拾われた。それで、抜刀斉になったようなものだ。しばらくすると、その時代でも監視の目をごまかしつつ、なんだかんだと山の中の小屋まで会いに行っていた。

 そして、今は明治十年の冬である。
「ねぇ、師匠。最近こんなの造ってんですか?何、これ?」
「いいんだよ!注文だから。ほっとけ。それより、人の質問に答えんか」
「お金は、もちろんですけどね。ここで、年を越そうかなぁなんて、思って・・・」
「もちろん、金などねえぞ!ったく、てめぇは人をなんだと思ってやがる。
「だから、一緒に新年を迎えよう、って言ってるじゃないですか。
 も〜、人の話を聞いてないんだからなぁ」
 てめぇ、正月料理が好きだもんなぁ」
と、上目遣いに清十郎を見る。
 そんなとこにいてもしょうがねぇだろ、とっとと帰んな」
(また、負けたか・・・。あ゛〜、もうっ)

「そうそう、来年から『お話』が始まるんですよ、俺の」
今夜の食事は当然、剣心が作った。
「よくわかんないんですけど、俺が主人公で、剣の達人の流浪人の話をやるんですってさ」「ふ〜ん、わかんねぇな」
「何日間でいくらなんだ?」
 評判が良ければ、延長らしいですよ。
「そんなわからんことだらけで、よく引き受けたな?」
「だって、とりあえずメシは食えるし、布団もあるから、
 いいじゃないですか」
流浪人にとって、これ以上は別に必要でもないらしい。
「で、報酬は前金制じゃねぇのかよ。せめて半金とかよ」
「出来次第だってコトは、後でしょう?
 だいたい、貰ってたらこんなとこ来ないもん」
「こんなとこで、悪かったな。っんとに、口の減らねぇやろうだぜ」
「そりゃあ、俺の場合、師をちゃんと見習ってますからね」
「てめぇなんざ、拾わなきゃよかったぜ」
「あ、師匠、それ食べないなら、俺に頂戴」
剣心は、清十郎の言うことなんか聞いちゃいない。
「何しやがる、いいなんていってねえぞ」
「もう食べちゃっいました〜」
「あ゛〜、もう許さねぇぞ、このくそガキ」
大体が、この二人の喧嘩の元なんてこんなものなのだ。
「いーでしょ?これつくったの俺なんですから」
「その材料は、俺が手に入れたんだよ」
「いいトシして、やだな。43にもなって」
「いいトシとはなんだ。てめぇこそ30にもなって」
「まだ28だ!だれが30だ。大体愛が感じられないじゃないですかっ。
 俺、ちゃんと師匠のトシ覚えているのに」
「愛なんざぁ、とっくに枯れたわ」
「師匠、懐が意外と浅いんだなぁ」
「よく言った。もう、殺す」
「いいですよ〜。お得意の九頭龍閃出しても。
 奥義で返り討ちにしてあげます」
剣心はとっくに奥義は会得していたのだ。
「阿呆。刀なんざ必要ねえんだよ。
 てめぇなんざ、この腕でくびり殺してやる」
「ずるいー。それ反則。力技は公平じゃないですよ!」
「ば〜か。これは勝負じゃねえ。公平もへったくれもあるか!」
と、清十郎は剣心を押さえ込む。剣心は一応、必死で応戦してはいるのだが、はっきり言ってなんにもなっていない。
「あ゛〜っ!痛い痛いったら。げっ、く・・くるし・・・」
清十郎は、身体の下でばたばたしている剣心を造作なく組み敷き、首を絞めた。
もちろん手加減はしてはいるが、かなり苦しそうにしている剣心をみて、ニヤリと笑う。
「おう、剣心。ごめんなさい、は?」
剣心はむかっ腹と苦しいので、顔を真っ赤にしながらも
「・・だ〜れが、・・・そんな・・こと・・いうか」
と、まだ謝る気はないらしい。
「あぁ、そうか」
清十郎は、軽く剣心の左腕をねじ上げる。
「い゛で〜っ!!!あ゛あ゛あ゛、ごめんなさいっ!俺が悪かったです〜」
「早く、言や〜いいんだよ。ったく、だり〜だろうが」
清十郎は乱暴に剣心を放すと、食事に戻る。剣心は、大の字に伸びている。

いつもの結末で、今夜も終わる。

〜 終 〜


家主に対する苦情・文句などなど 誉めてもかまわないでござるよ(笑)