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 また、ヤフオクを見てしまったのがソモソモ「マチガイ」の始まりだった。 「カーバイドランプ 未注水未点灯 (NOS) 」8000円也。(NOSはNever used Old Stockの略)。  以降は国外の製品について述べるので「アセチレンランプ」は「カーバイドランプ」又は「Carvide lamp」と記載させて頂く。  <私の目の前に、鴨が葱を背負って来た。即入札。他に変人はいなかったらしく、其の値段で落札出来てしまった。ジャンク品しか持っていない私にとっては最高レベルの品となった(写真B01-02)。 Carvide caplamp」と云い、鉱夫さんや洞窟の探検家が此を専用の帽子の鍔(つば)の上に載せて固定出来るように設計された小型軽量のランプである。ランプ全体が真鍮製で、外観は気になる様なキズもヒビ割れも、表面の真鍮の曇りも無い、ピカピカの製品であった。

 上面には水の滴下量を示す目盛りが、凹凸をつけて真鍮板にプレスされている(写真B03)。 水滴調節バルブに直結しているレバーは末端がバネ状に曲がっていて(写真B02右)、それが目盛りと目盛りの隙間に嵌り、一寸の振動では外れず、水の滴下量に影響を与えない様に設計されている。此のレバー(Valvecontrol)は約90度の回転で、閉から全開までに8段階位の滴下量の調節が出来る。全体の構造は(写真B07)参照。  星一徹の様に「つるはし」をダイナミックに振り回されると、ランプには相当の振動が加わる。併し其れくらいでは水の滴下量は影響を受けない様に設計されていた。  注水口には軽く押すだけで閉まる蓋が蝶番で付いている。 前面の反射鏡は真鍮製のクロームメッキで、其れを支えるネジもニッケルメッキされた真鍮製。

また火口の横に発火装置が附いて居る(写真B04)。 ライターと同様に、ヤスリを回転させて火花を出して、アセチレンガスを点灯出来る。ヤスリと発火石を押し上げるバネ、此の部分のみ鉄製である。 私も試してみたが、真鍮のヤスリでは発火出来ない。鉄の部品を極力使わず、洞窟内を探索する人々のコンパスを、少しでも狂わせないよう配慮されている。素晴らしい品をゲットしたと喜んだ。
(発火装置付きのライターが初めて製造販売されたのは1900年頃である。気化したベンジンとアセチレンガスの差はあるが、ガーバイドランプのメーカーが飛びつかない筈は無い)  ランプの水タンクの蓋にはBUTTERFLY TRADE MARKとプレスされていた(写真B03)。此の蝶が何を意味するのか、購入してから2週間目にやっと解った。其れまで気分は最高だったが、急にコケた。「ガチョーン!」と云う幻聴と共に一寸の間、視野が揺れた様な気がした。知識不足であった。教科書を持っていない初心者は、オークションの実戦で授業料を払って学ぶしか無い。  The Carbide Caver.というサイトにBuying a carbide という項目が有り、各種メーカーについての説明が簡単に記載されている。 其の総論は、「オークションなどで、Butterflyというカーバイドランプを見るかも知れないが、其の正体を知れば、キミはきっと其れを地下へ持っていかないと思う」初っぱなからケチが付いた。 各論は、「The Butterfly (A.K.A Safesport)は香港製で、外観は優秀なGuy's Dropperに酷似しているが、中身の機構は信頼がおけない。バカ安値だが、ガス漏れや、火口へガスを導く真鍮パイプが破損したり、外れたり、他にも様々な問題がある製品である。


水タンクの蓋に描かれた蝶のマークは、洞窟内では迫り来る暗闇の印(しるし)である」  また、他の記述もある。「Butterflyは一寸使用しただけでスグに崩壊する。アジア で安く作られて、米国に輸入された。間違っても此のランプを買ったり入札したりしないこと。たとえ(NOS)であっても、其の価値は無い。1960-70年代に生産されたが、コレクターからは無視され続けている」 出品者の参考写真でも、現物でも、蝶が判別出来た(写真B03)。 外箱にも下タンクの底にもSafesport Denver,Colorad MADE IN HONG KONG の文字が書いてある(写真B01,B05)。誰もが入札を躊躇した理由が解った。  はたしてGusketと呼ばれるパッキンはひび割れていたが、もうそんな事で驚くウブな私では無い。此の種の物は、押印の下敷きに使う緑のゴム板をドーナツ状に丸く切り抜けば簡単に作れる(写真B06)。 初めて舶来品を手に入れた私にとっては、模倣品とは云え、モデルは優秀なGuy's Dropperである。外観を眺めるだけでも楽しい。製品を手に取って遊ぶ事が出来て喜んでいた。
暗闇が迫らぬよう、点灯さえしければ問題は起こらない……。  併し、駄目よダメよと云われれば、やってみたくなるのが人情である。「チョッとだけよ」とドリフの加藤 茶が、頭の中で囁いた。 「未注水未点灯」と書かれていても、一度でも点灯すればカーバイドのカスが、底にこびりつくので、証拠が残るが、注水だけなら後で良く拭いておけば証拠は残らない。






取りあえず注水してみた。コロナの例もあるので、水タンクを外し、透明なグラスの上に置いた。弁はOFFの位置にしてタンクに注水したが、弁以外の所、アセチレンガスを火口に導く穴から水がボタボタ落ちてくる。真鍮パイプの何処かに穴が開いている様である(写真B07)。此の時点で出品者は諦めたのかもしれない。前述の如く証拠を消して、「未注水未点灯」と書けば、水漏れは「知らなかった」ということになる。これも8000円の授業料、ひとつ教えて戴いたと前向きに考える。  漏水を知らずに弁をOFFの位置にし、カーバイドを装着してランプをセットし、タンクに注水すればすれば、漏水により大量のアセチレンガスが発生し、タンクの圧力は急激に高まる。知らずに点火すれば火口より強烈な炎が吹き出て、ランプ自体が爆発するかも知れない。まずは其の前に火口の「バーナーチップ」が吹き飛ぶ事であろう。此れはネジ止めでなく、押し込んで固定する。昔のガラスの試薬瓶の注ぎ口の様に、奥に向かってやや狭く傾斜しており、同じ様な傾斜のあるガラスの蓋で栓をする。強く押せば摩擦で固定出来る構造である。ランプの火口は陶磁器で直径0.1mmの穴が開いている。 外側は真鍮で覆われて、バーナーチップを構成している、真鍮にはガラスの試薬瓶の蓋の様な傾斜が付けてある。バーナーチップが吹き飛ぶと、直径5mmの放出口が開口するので、かなり減圧される筈である。火口は「安全弁」も兼ねているのかも知れない。  私は私の技術で、授業料を取り戻す事にした。50%は治せる実績を持って居る。  注水口よりパイプは見えるが、視野は狭い。破損部を見つける事は不可能である。ランプの天板は銀蝋附けなので、此を剥がすには、アセチレンガス溶接技術が必要になる。私の守備範囲外である。外側からが駄目ならば内側から迫る事にした。此所でまた登場するのがテルモの点滴チューブである。 Carbide lampには点滴チューブがよく似合う。
 ガスを火口に導く真鍮パイプの中に挿入、偶然だが収まりが良かった。火口に通ずる真鍮管にピッタリと嵌ったらしく漏水してこない。接着剤をてんこ盛りにして修理完了。此れだけいい加減な製品なら、火口だって怪しいに違いない。抜き取ってガスが流れるはずの穴を覗いてみたら、案の定、あちら側が見えない。火口は最初から何かが詰まって塞がれていた。幸い裁縫用の細い針で開通出来た。  散々っぱら手間暇かけさせて何が(NOS)だ。併しMADE IN HONG KONGは、制作された時代が時代だけに、そんなものがあっても仕方がない。嘗てのMADE IN JAPANも同様であった事を思えば、お互い様か。少し寛大な気持を装って、其の時代を思い出す。街にはジープに乗った進駐軍がいて、牛が千川通りや十三間通りを荷車を引いて歩いていた。 此のランプを点灯させるには更に下準備が必要である。其の侭では大き過ぎるカーバイドを砕く事である(写真B08)。小さなランプなので、パチンコ玉くらいの大きさにする。セメントより堅いので、まず地面に新聞紙を拡げ、大きさは漬け物石位の石を置く。厚い透明ビニール袋にカーバイド入れて金槌で叩く、ビニール袋の亀裂から新聞紙に飛び散った粉や小さすぎる破片は水をかけてアセチレンを抜いて置く。必ず戸外で行う。ビニール袋や新聞紙を略したりすると、カーバイドの破片や粉が其の辺に飛び散る。散水や雨の日に可燃性のアセチレンが発生して危険であるし、水酸化カルシウムの白い粉が汚く残る。


 砕いたカーバイドを詰める際、内壁を汚さない為にコンドームを使う。婦人科では超音波プローベのカバーに、日常使っているので使用に抵抗感は無い。  直径は岡本理研の標準サイズで可。LLサイズと見栄を張る必要は無い。  大豆の詰まったゴム製品を下のタンクに押し込む、大豆でも小豆でも何でも出し入れし易い物で良い。隙間が無くなるまで詰めて、ボトルの内壁とゴムの間の空気を外に逃がしたら反転させてボトルの外壁に密着させて空気を逆流を遮断する。豆を抜けばゴムの収縮力より空気圧の方が勝り、ゴムはボトルの内壁にへばり付く。其の侭カーバイドを入れて水タンクを装着すれば、ゴム内でアセチレンガスが発生し、残った水酸化カルシウムはゴムごと捨てられるのでボトルの内部は全く汚れない。薄いが強靱なゴムは、洗えば2回位は使える。「使用後のコンドームなど洗えるか!」 「ハイ、ごもっとも!」 私も正しい使い方をしたものは、再使用した事は無い。正しい使い方での再使用は家族計画上は危険だが、ランプに再使用して失敗しても彼女は妊娠しない。

 点灯させた。外見似菩薩内部如ポンコツ。バカでも美人はやはり美しい。口さえ開かなければバカはバレない……。水滴がタンクの中で、カーバイドと反応してタンクの内圧が上がると、ブブブブ− プシュワーという音がして炎が大きくなる。点滴チューブが音を立てているらしい。彼女は口でない所から音を出した様に聞こえる。PETU DE NONNE なのだが、せめてSOUPIR DE NONNE「尼さんのため息」と訳しておこう。 写真B09-12は無影灯下、写真B13-14は天井の蛍光灯のみ、写真B15-16は無灯火で撮影した。  前述したBuying a carbideによれば、カーバイドランプは1900年に市場に出た。そして、第一次大戦頃には需要が増し、大いに売れた。その後1920年代にはCarbide caplampとして鉱山で盛んに用いられるようになったが、ごく最近になって懐中電灯やLED照明の発達により衰退した。現在手に入るものは殆どが中古または(NOS)である。「買うならGuy's Dropper, Autolite, Justrite, Premier, Mike Lite, Minexの製品にしておきなさい、此なら安心」と記されている。(今でもインド製のMinexは生産中で、新品が60ドル位で手に入る)  「蝶」がダメなら、他の優秀と云われた品を購入して、正しく点灯させてみたくなった。ヤフオクでは日本の中古品は出品されても、国外製のランプは滅多に出品されない。  「eBay」という米国のオークションを毎日の様に覗いて、上記サイトのお薦め品を探した。或る日「蝶」の手本となったGuy's Dropperを見つけて入札した(写真B17)。

元値の二倍の70ドルまで張り込んだが、オークション終了直前2秒前に71ドルを入札されて、他人に落札されて仕舞った。鳶に油揚げを掠われた。2秒ではどう対応したらよいかの考えも浮かばない。敵さんの鮮やかな手腕に脱帽した。これは悔しさは残るが、金銭的にはロハの授業料。冷静になって考えれば、彼はUSER-IDとPASSWORDと金額を予め入力し、即入札の準備を出来る状態にしておき、其の時刻にリターンキーを押したのであろう。私も其の時間帯は何時でも72ドルを、0.6秒で叩き込める様に、刀の鯉口は切っておくべきであった。 因みに0.6秒とはゲーリー・クーパー、アラン・ラッド、エースのジョー(宍戸 錠)の抜き撃ちのスピード記録である。中学高校時代を西部劇と戦争映画で過ごした方は、ご存じであろう。

 懲りずに毎日「eBay」で網を張っていると、或る日、Guy's dropper 2 Date を見つけた(写真B18)。 ヤフオクで、「マチガイ」が始まったばかりだが、 「eBay」で其の「マチガイ」は、「もう、どうにも止まらない♪」

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