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 露店商用アセチレンランプの材料はトタン板と鉄の鋳物で、表面にはペンキが塗ってある。 内部のトタン板は亜鉛メッキだが、無塗装である。

  鋳物の部分の裏面も無装である。其の内に鋳物から錆び始めるのは必至である。併し其れ相応の値段なので文句は云うまい。
 一方、錆びに強い真鍮製のランプも存在する。日本では現在製造はされていない。国外では多くの製品は真鍮製であった。現在も僅かに製造されている。
 ヤフ−オ−クションでジャンク品を4800円也で落札した。真鍮製に誘惑された。磨きには自信が有る。
 2連休の初日早朝に届いた(写真05)。 これにもコロナと書かれていた。コロナ製機は明治時代より約一世紀にわたりアセチレンランプを作り続けている。此のジャンク品は何時作られた物かは解らないが鉱山用だそうだ。反射鏡無し、水タンクに亀裂有り、動作の確認無し、と書いてあった。
 真鍮は黒ずみ、汚れだらけである。実際に届いた品物は、オークションの写真では見抜けなかったが、かなりデコボコである。鉱山で相当使い込んだと思われる。早速分解して、一時間程希塩酸に浸けた。発生する泡と共に、表面の錆びやバイキン、ランプに取り憑いているやも知れぬ所有者の怨念まで、完璧に溶かして呉れた筈だ。引き上げた直後は、銅製品の様に見えたが、金属磨き「ピカール」で擦ると黄銅色に戻る。デコボコはともかく、ピッカピカの真鍮製である(写真06)。

 上の水タンクに注水して、下から覗くと、やはり亀裂があり、1秒間に4滴位ぐらい水滴が落ちてきた。セメダインスーパーで亀裂を埋めても1秒間に1滴は落ちた。滴下量を調節する円錐型のニードルバルブの弁が磨り減っている様である。
 真鍮パイプの断面を円錐型に削り、ニードルの弁の少し上にはめて半田付けした(写真07)。これで水漏れはしなくなった。  準備万端、カーバイドを入れ、2秒間に1滴位水滴が出る様にツマミを調節してから蓋を閉めた。
 上下のタンクにはネジが切ってあり、捻ると密着する。下のタンクの中にアセチレンガスが充満したと思った頃に火口に点灯したが、火の勢いが弱い。水滴の量を増やしてみたが、あまり強くはならない。
 其の内、ボッっという音がしてランプ全体から火が噴き出した。劣化したパッキンの隙間からガスが漏れたのである。一瞬水をかけて消火しようと思ったが、更に中のカーバイドに水を加える結果となることを恐れた。厚い布の「鍋つかみ」で水量調節用のツマミを絞って、これ以上ガスが発生しない様にしたが、火勢はなかなかおさまらない。
 昔、爆撃機のエンジンが被弾して火を噴いていた映画を思い出した。機長は機を急降下させてスピードを増し、その風力により消火した。院長も躊躇せずアセチレンの炎に思い切り息を吹きかけた、吹きまくった。はたして火は消えたが、初めてフルートの練習した後のように息が切れ、心臓は高なり、頭がクラクラした。
 ランプは熱いので、鍋つかみを上下につかんで捻って、水タンクと燃料タンクを分離して換気扇の下に置いた。残っていたカーバイドを触るとけっこう湿って減っていた。写真など撮っている余裕は無かった。
 ランプ本体が充分に冷えてから再び組み立てた。 ランプのニードルバルブの弁を抜き取り、弁の穴を指で塞ぎ、注水口よりタバコの煙を思い切り吹き込んだ。煙は火口よりもパッキンの周囲から大量に出た。
 ヤフオクの出品者が「動作の確認無し」と書かれた意味が理解出来た。こりゃーもう駄目かなと一時は諦めた。併し鶏と同じで3歩あるけば、忘れた。このくらいのことでめげる私では無かった筈。
 壊すつもりで修理をすれば、IC部品以外の機械なら、半分くらいの物は直せると信じている。仕上がりの「見て呉れ」や「良性肢位」は無視して、機能だけを回復させれば、其れで直ったと云う事にして居る。
 零細診療所の院長は用度課長も兼務している、出来る限りの物は自力で直さねば務まらない。院長は、診療所の壁、廊下の塗装は勿論。颱風で飛んだトタン屋根は、探し出してクギを打ちペンキを塗って治す。水漏れなどはクラシアンを呼ぶより、「ドイト」に走る。

 パッキンが駄目ならパッキンを作り直せばよい。ゴム板や隙間ピッタリテープを詰めたり、試行錯誤しているうちに、テルモの点滴チューブの弾力と太さが最適である事を発見した。隙間にトンボのピットマルチ2という接着剤を流し込む、紙に薄く塗って乾かせば其の紙は付箋紙代わりになるが、厚く塗って乾かすと適度なクッションになる(写真08)。其の侭ではベタつくので、上に薄いゴムシートを敷いた。
 最早タバコの煙はパッキンから漏れなくなった。ところが水タンクの側壁にも亀裂があって煙が僅かに出たが、此は無視、余程の水圧がかからねば水まで漏れまい。医療従事者にとって此のゴムシートには見覚えがあると思う。
 実は血圧計のマンシェットのゴム袋である。ゴムチューブの根本が破損して空気が漏れたので、捨てようとしたが、此の微妙な薄さのゴム板の手持ちが無いのでストックしておいた。 こんな処で役に立った。
 医療器具を駆使して病んだアセチレンランプを完治させた医者は、私くらいの者さと胸を張る。早速点灯してみた(写真9)。  黄銅色に輝く小柄なランプがオレンジ色の目映い炎を出して居る姿は、落ち着いて優雅でロマンチックな感じがする。火口が一つであるのも上品に見える。露店商から貴婦人に変身した。ガスの量を増すといささか野暮ったくなり、貴婦人とは云い難いが、別嬪さんだ。一生懸命手を加えて再生させた道具である、多少の贔屓目は許されたい。同じアセチレンランプでも露店商用にまとい憑く暗い気分は帳消しである。
 アセチレンガスC2H2は水素に対する炭素の割合が多いので(1対1)、煤が多いが明るいそうだ。

 因みにメタノールCH3OHは炭素の割合が少ないので明るくもないし煤も少ない。成る程ナルホド。で、煤で部屋が黒くなる。蝋燭の様に、食卓にロマンチックな演出を加える事は出来ないどころか、屋外専用である。 内でも外でも、もうどうでも良い。連休丸二日間、朝から晩までジャンク品の再生に没頭して、怖い思いもしたし、絶望感も味わったし、疲れ果た。併し、結果は良し、生業を全く離れ、思う存分に遊べた。
 鶏センセイは次の週末になると、また火遊びがしたくなった。此のこのランプは鉱山用である、反射鏡を付ける事により、ランプを完璧に復元したと云える。金属の凹面鏡など現代の御家庭には、おいそれとはころがっていない。自作するしか無い。色々物色してみたが、カセットコンロのボンベの底の大きさと形はランプの反射鏡に丁度良い、おまけに光も良く反射する。まず、ノズルを破壊して完全にガスを空にした。
 電気ドリルに切断砥石を付けてボンベの底周囲を切る、軟鉄なので切り易い、切り口にグラインダーにかけて滑らかにして鏡は出来た。併し、真ん中に火口と同じ 10mmの穴を開けるには、まず中心を決めなければいけない。方法についてかなり悩んだ。円周上の2点の中点に垂直を云々。

 併し旋盤に裏蓋を挟んで回転させ、10mmのドリルを送れば、其れでお終いだった(写真10)。左が材料と同型のボンベで隣が完成品。鏡の中心に05年12月22日と製造年月日が印刷されている。 来たるべく大震災に備えて備蓄してあるボンベを古い順に消費している、医師会の講習会のお陰である。早速点灯してみた。反射鏡をつけると10倍位明るくなった(写真11)。

 ランプの形が落ち着いたところで、燃費について考えてみた。
 カーバイドは1Kgで約1000円、御近所様では入手困難なので、通販に頼らざるを得ない、更に送料と代引き料が加わる。LPG(液化ブタンガス)は250gのボンベで100円、百円ショップで簡単に手に入る。 アセチレンガスの代用品として、LPGでは如何なものか。

 火口を100円ライターに無理矢理くっつけてみた(写真12)。いい感じで炎が上がる。火口をカセットコンロのボンベにもくっつけた(写真13)。やはりいい感じである。
 LPGの分子式はC4H10でアセチレンC2H2より炭素の割合はかなり少ない。
 明るさはどうか、同じ火口で比較してみた。二股火口でもLPGは所詮ライター2個分の輝きで、火口の根本のガスは燃焼されずに青い、アセチレンは火口の根本から明るい、炎の長さ(=ガスの流出量)が同じなのにアセチレンの方が桁違いに明るい事は写真でも納得出来る(写真14)。
 両者同じ条件で照度計で測定すると、アセチレンはLPGの10倍の明るさだった。LPGは瓦斯灯化しなければ充分な明るさを発揮出来ない。瓦斯灯のマントルは脆い、此を携帯して「つるはし」を振るっただけでマントルは壊れる。おまけに「良い?」香りもしない。LPGの完敗。代用品にはならない。
 話をランプに戻す。国外のカーバイドランプは殆どが真鍮製である。水タンクよりカーバイドに、如何に正確に、安定して水を導くか、19世紀末より各種のメーカーが鎬を削っていた。其れに較べると、私が入手した二種の国産品は其の構造は稚拙である。また、スタイルにも格段の差がある。 また、ヤフオクを見てしまったのが、間違いの始まりだった。滅多に出品されない、未注水・未点火(NOS)の外国製のアセチレンランプが出品されていた(写真15)。 Made In Hong Kong? 怪しげだが、もう落札するしかない!
 

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