和食器は材質で分けると、磁器と陶器に大別されます。磁器は陶石を主原料に、長石・カオリン・珪石などを配合した特殊な土を焼いたもので、多くは施釉(せゆう)してあり、表面は白く透明感があり、ガラスのように堅く締まっていて吸水性のない焼物です。
一方、土ものとも呼ばれる陶器は粘土が材料。土も焼成温度も産地や窯場によってさまざまで、素地に吸湿性があるものが多く、透光性のない焼物です。なかでも釉をかけずに堅く焼き締めた「備前焼」や「信楽焼」、白化粧をした上に透明な釉をかけた「粉引」、草木の灰を原料とする釉をかけた「灰釉」、吸水性に富んだやわらかい土を焼き上げた「萩焼」などは、使うたびに味わいの増すもの。育てるように使う喜びのある器です。
気に入って手に入れた器なら、大切に育て、できるだけ長く楽しみたいもの。お手入れの方法を正しく知り、陶器との出会いを大切にしたいものです。

器を手に入れたら
最初にしておきたいこと

器を買ってきたらまず、高台といって茶碗や皿、鉢の底にある輪の部分の点検をはじめにしましょう。昔は商品を購入する時、瀬戸物屋さんがやすりをかけてくれたものですが、最近は出荷するときにきれいにしてあるので、底がざらついているものはほとんど見当たりませんが、それでも点検は行いましょう。そのままにしておくとテーブルや塗りの折敷を傷つけたり、重ねたときにほかの器を傷つけるもとになります。触ってみてざらついている場合は、目の細かいサンドペーパーでていねいにこすってなめらかにします。
次に土ものの場合は、煮沸します。こうすると、衛生的で熱に対する抵抗力が引きだされ、使い勝手がよくなります。このとき、米のとぎ汁を使用すると土肌の目を埋めることになり、汚れがしみ込みにくくなります。鍋に器を入れ、器がかぶるぐらいの水で、約三〇分煮沸します。あとは自然に熱をさまし十分に乾燥させてください。ただし米のとぎ汁を使用した場合は煮沸した後、洗い流して乾燥させましょう。
アンティークの器は、しばらくぬるま湯に浸したあと、中性洗剤で隅々まで、ていねいに洗ってください。糸底や反口など汚れや黄ばみがあればブラシで汚れを落とします。さらに気になれば台所用漂白剤溶液に一晩浸しておき、あとはよく水洗いしてください。
土鍋はひび割れしやすいので、まず野菜クズをいれてお粥を炊きます。こうすることで、お粥の粘気が鍋肌を強くしてくれ、アク抜きにもなります。火にかけるときには外側の水分を乾かして、弱火から煮始めます。土鍋は空焚きしたり、急激な温度変化を与えないように扱ってください。

味わい深い食器に育て上げるため
にこころがけたいこと

陶器には、土の粒子と粒子の間にすき間があります。信楽の無釉の焼きものや、粉引や萩焼などの軟質の陶器類は吸水性が強いので、使う前にぬるま湯につけて十分水を吸わせてから使ってください。そのまま使うと料理の煮汁や油分などが染み込んで落ちにくくなったり、カビが生える原因にもなります。水に浸すのは十分から一時間、半日でも。備前などの「焼締」の器は濡らすと冴えた土味が出てきます。
貫入は、ガラス質の釉薬の表面に現われた細かいヒビのことで、茶道ではこの貫入からお茶がしみ込んで器に景色を作り出し、茶人に好まれてきました。これこそ和食器特有の楽しみです。けれども、景色がよくなることと汚れがひどくなることとは違います。大切に育てるように扱えば、使えば使うほど味わい深い器になることでしょう。
使い終わったあとは、早めに水につけやわらかいスポンジを使って中性洗剤で洗ってください。油などの汚れがひどいものは、水に浸す前にペーパータオルなどで拭き取ってください。陶器はかなり吸水しているので、そのままで片付けるとカビが生えることもあります。汚れを落としたら最後に熱湯に通し、完全に乾かしてから収納しましょう。
徳利のように口の細いものは、ときどき細いブラシで内部も洗い、伏せて水きりして、ていねいに拭き上げるようにします。
また、急須のお手入れで行き届かないのは目詰まりしがちな茶コシの部分。ときどき、カラカラに乾かしてから歯ブラシなどを使って念入りにお掃除しましょう。洗剤を薄めた水につけておくと、すみずみまできれいになります。

金銀彩の器を
上手に使うためのコツ

金や銀で彩画された器は見た目に艶やかで、お祝いごとやハレの日のテーブルには欠かせないものですが、取り扱いには注意が必要です。クレンザーなど研磨剤の入った洗剤を使うと傷がつくので、中性洗剤に浸し、やわらかいスポンジでやさしく洗いましょう。基本的に金銀器と同じく、ていねいに扱ってください。金は安定した物質で変化も少ないのでさほどではありませんが、銀は酸化して黒ずむことがあります。その味わいを好む人もいますが、黒ずみが気になる場合には、市販の銀磨きクリームか、なければ練り歯磨きを少しつけて、ネルか使い古しのガーゼのような柔らかい布、あるいはティッシュペーパーで傷つけないように磨いてください。
ふだん使わないときは和紙やわらかい布、ラップなどに包んで空気に触れないようにしておくと、酸化が防げ美しい色合いが保てます。

いつまでも美しく使うために
気をつけたいこと

洗ってよく乾燥させたら食器戸棚に収納します。和食器は洋食器とちがい、さまざまな大きさや形があるのでうまく収めるのに苦労します。やはり茶碗、皿、小鉢などカタチ別、大きさ別に整理し、揃いのものは重ねて収納するのが場所もとらないでしょう。食器を重ねるときは、重ねすぎると不安定になり倒れることがありますので、五〜六客が限度でしょう。鉢類のような高さのあるものは三客程度にします。また揃いの器を重ねておくと、ついつい上のものばかり使いがちになるので、使ったものを一番下に収納するようにしてまんべんなく使えば、末長く使えるでしょう。
気をつけていても、知らないうちに器が傷ついていることがあります。輪花や割山椒など縁の弱いものは重ねている間に欠けていることがありますし、軟質系の陶器や色絵、金銀彩のものは傷つきやすいので、扱いは念入りに。重ねるときには、器の間に和紙やパッキンなどをはさんでおきましょう。これらは特別に用意しなくても、器を買ったときの包材を利用するといいでしょう。
徳利のような深みのある器は、アルミ箔を被せておくとホコリがつかず、簡単に洗ってすぐ使うことができます。
ときどきしか使わない器は、ひとつずつ和紙や綿布に包んでから箱におさめます。箱の隅にすき間ができるときは新聞紙をまるめてパッキンの代わりにします。大皿や鉢類は、紙で包んだ後、梱包用のパッキン材や古いタオルなどで包み、安定がよく湿気が少ない、日のあたらない場所に保管します。
どんなに大切な焼きものといっても、使ってこそ器。ときには取り出して使った方が、器を長持ちさせることにもなります。

焼き物を割ってしまったときは

お気に入りの器は使う回数が多い分だけ、割ってしまう機会もそれだけ増えてきます。あっ、と思ったときにはすでに遅く、悔やんでも悔やみきれない経験は誰もがもっていることでしょう。
大切にしていた器を割ってしまった場合は専門家に依頼して漆と金や銀などで継いでもらうことができます。行きつけの器屋さん、もしくは古美術商に相談します。直しには金継ぎ、銀継ぎ、共継ぎなどがあり、名手にかかれば、どこを継いだのか分からないほどの出来栄えです。また、金継ぎなどをすることにより、それが器の景色となり一層風雅さが増し味わい深い器となる場合もあります。
日常使う器の場合には、「器代より修理代の方が高くつきそう」とあきらめてしまうこともありますが、器を育て上げてきた歳月と、愛着には勝るものがないはずです。
割れることを恐れ、しまい込んでいたのではどんな食器でも死んでしまいます。使いこむことが器を育てること、金継ぎも器を育てることの一つとして楽しむことが、使い手と器の歴史につながっていくことでしょう。




次頁