□pulse


Various Artists
"ambient systems II"
(Instinct Records,1996)

cover

電子音系のパルスが、このコンピレーションのテーマと言っていい
ほど、全体を統一する。ブライアン・イーノ『オン・ランド』を想
起させる非現実的な環境を発生させる曲から、極度に素材を抑えた
余白の多いアブストラクトなトラックまで多彩だ。コンピレーショ
ンであるにもかかわらず、一聴してひとつのトーンを感じるけれど、
それは止むことのないパルスが音楽全体を覆っているためだろう。
しかしそのパルスという通底する枠組みが、それぞれのトラックの
持つ響きの特質の違いをかえって強調することになっている。決し
て単調ではない。

パルスはゆるやかだ。これはダンスのための音楽ではなく、より静
的な拍動に近い。座ったり寝転んだりする、リラックスしている時
の、ヒトのBPMとの親和力を持っている。

機材の使い方は最新機器のデモとしての無邪気な音の実験ではなく、
ストイックな慎重さで選ばれた音色に、センスを感じる。非常にハ
イファイな音だけれど刺激的な音ではなく、一枚を通して聴くこと
に全く疲れを感じさせない。このことはこの音楽の耐用年数の長さ
もすでに保証されているということにつながるだろう。すでにある
成熟したテクノロジーを完全に咀嚼して、<最新であること=いず
れ古くなること>の落し穴を回避するというこのスタンスは、イー
ノに匹敵するものだ。アナログテープ・ループを重ね合せた70年代
の彼のアンビエントが未だに時代とは無関係であり続けているよう
に。


1999 shige@S.A.S.
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