Aphex Twin
Selected Ambient Works 85-92
(R&S)AMB 3922 CD

cover

非常に豊かなアンビエンス。深い深いリヴァーブ。遠くで鳴ってい
る印象を持つこの音楽は、たとえて言えば、音源から発せられた音
が耳に直接届くのではなく、目の前に透明のフィルムがあって、そ
こに跳ね返っては去っていくのを見つめる、という感じか。

この「届かない響き」は、響きに包まれているのではなく、音楽空
間にあるもうひとつの「僕を包む膜」に守られていることによるか
のようでもある。閉じた空間の内部での反響を聴いているのではな
くて、自分が閉ざされているからくぐもって聞こえる音。

それは孤独なのか、窒息なのか、安全なのか。どれなのだろう。





Aphex Twin
Selected Ambient Works Volume II
(WARP,1994)WARPCD21



"Selected Ambient Works 85-92"に比べて、全体的にエコーの
少ないデッドな音場。ヴォイスが、パルスが、耳元に迫る。すぐそ
こで鳴っている音楽。防音室のドアを閉めた瞬間に感じる、窒息に
も似た耳の圧迫感が、すぐに静けさのもたらす安堵に変わる時の静
止した空気を思い出す音に聴こえてくる。

謎めいたトラック、ディスク1の3曲目。
「独りで泣きたいような」
そんな情感を聴き取っていいものかどうかわからない。単なる響き
なのか、感情を叙述した音楽なのか、どうなのか。

ごく少ない音素材によるこのディスクの音に沈潜するという体験が、
極北の寂しさにも似ているということは、言えるかもしれない。



Ode to Richard

1999 shige@S.A.S.
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