□drone


David Darling
"Dark Wood"
(ECM,1995) POCJ-1275

cover

かつてバロック音楽で通奏低音を担当した楽器であるチェロ。音楽
の土台を作り続けてきた楽器。

アンビエントとしてこのアルバムを聴くなら、背景や土台としての
低音を空間(=アンビエンス)として意識することになるだろう。
つまり、音楽の<場>を作るために鳴り続ける音だ。この低音はジャ
ケット写真のおよそ半分を占めるダークな大地のように、音楽を支
える。それはフォーカスの合った音像ではなく、一つの楽器から響
く音とは思えない大きな広がりだ。またしても楽器をあくまでも自
然な表現のうちに異化してしまう、ECMらしいコンセプトが見て
取れる。

広がる低音の上をそれよりは高い音域やピツィカートで旋律が動く。
しかし依然として聴き手の視点はひとつに定まることなく、複数の
音の動きを同時に聴き取ることになる。地底からはい上がるかのよ
うな音が高く昇り、いつのまにかメロディになっているという、こ
の音像の焦点の曖昧さが、ダーリングの音楽の持つ流麗さであり、
魅力である。彼の音には、沈黙は多いが断絶と分離はない。

伴奏と旋律という境界を無くすことはつまり、聴き手に<形ある音
楽>を強要しないという、アンビエントの一つのありかたを提示し
ているように思える。ただそこにある、遅く低い音の流れを大きな
全体として眺め渡すという聴きかた。

厳しく、深く沈潜する音楽だけれど、重心の取れた安堵をもたらす
音楽だ。それはこの楽器の音域が人間の声に最も近いということだ
けではなく、まさに、地上にいる安心感に似た響きだからだろう。


1999 shige@S.A.S.
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