□melody □environmental

Morgan Fisher
peace in the heart of the city
『都市生活者のための音楽』 (Kitty,1988)
(現在プレム・プロモーションより再発売)


cover

キーボーディスト、モーガン・フィッシャー(かつてのモット・ザ・
フープルのメンバー)によるデジタル・ピアノ+シンセの、一貫し
て静かな音楽。高音域でのピアノのきらめきが美しい。メロディア
スなので一緒に歌いたくなる親しみやすさがある。シンセサイザー
は背景に回って、壁紙のデザインに終始する趣に処理されていると
ころなど、刺激的な押し付けがなく聴きやすい。
ひたすらに心地よい音楽はしかし、実際にはこの非常に微細な音に
耳を澄ませることが、日頃忘れがちな<聴くこと>の再発見を促す
意味までも、持っているのだろう。ネガティヴに聴くなら、ガラス
の破片の輝きに見とれるかのような硬質に消え入る音の粒子を周囲
の騒音にかき消される聴き手の生活環境を嘆くことになるかもしれ
ない。ポジティヴに捉えるなら、このリスニングという作業を通じ
て、日常の音ひとつひとつを美的に発見する楽しみへと導かれるこ
とになるだろう。

それはちょうど、アルバムに添えられているブックレット型のフィッ
シャー自身の写真集を見ることに通じる。ここにはコンクリートに
埋め込まれた砂利、ペンキを塗られた木材の断片、(おそらく)グ
ラスのなかの水と氷、といった生活空間のどこにでもあるモノたち
の、繊細すぎる接写が収められている。どこまでも対象を拡大した、
ミクロの、いつでも見ているはずの、しかし初めて目にする結晶世
界の発見だ。これほど音楽とアートワークが緊密に結びついている
共通のテーマを持ち得たパッケージは稀少だと思う。これが筆者の
過剰な深読みではないだろうことは、写真集に付けられたロケーショ
ンデータを見れば理解されることと思う。

"location:any ordinary street in any ordinary city"
「ありふれたあらゆる街の、あらゆる路上にて」*

と書かれているのだから。
なお、再発盤に写真集が付いているかは未確認だけれど、見ていた
だきたいものでもあるし、それがなくても音楽だけで十分過ぎるほ
ど、美しいのはもちろんのことだ。

<聴く>ということについて、フィッシャー自身はジャケット裏で
このように記している。最後に彼の言葉を引いておこう。

"on this recording the silences between tracks
are slightly longer than on conventional albums
listen very carefully to the silences !"

「このアルバムでは、曲間のポーズを一般より少し長めにとってあります。
静寂を注意深く聴いてください」*
(* 引用者訳。イタリックは原文のまま)


1999 shige@S.A.S.
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