□drone □noise □environmental


Wieland Samolak
steady state music
(imbalance)

cover

「車、電車、ヘリコプターなどの音が遠くからでは融和しひとつの
連続音に聞こえるという現象に惹き付けられた体験から生まれた」*
音楽。このかすかな人工音の体験が、このディスクの原点だったと
いう。

* ライナーノーツより抄訳

人工的な生活環境音とよく似た音を鳴らしてみるということが、こ
れほどの効果をもたらすとは。目立たない騒音と融和する音が、美
的表現としての内実をこんなにも持っているという発見。

筆者の体験。このディスクを再生している間は、特にトラック1で
はコンピュータが発し続けるハードディスクのファン音が全く気に
ならなくなる。同調して消えてしまうからだ。1000Hz前後が中心
帯域のホワイトノイズ風ドローンで、響きの質が似ているようだ。
そして時に、中心がより低い帯域へシフトするなど、均質なようで
揺らいでいる。ところでコンピュータのノイズは全く変化がない。
このことが窒息の不快感をもたらすのだとすれば、ゆらぎはその正
反対に位置する音楽的要素である。

それぞれのトラックは、空調の音、近くの工場の排気ダクト、自動
車の連続的な通過による暗騒音など、書き出すと暗澹たる気分にな
る筆者の置かれる生活環境のノイズにそれぞれ同調・相殺する音の
成分を持っている。
6分から12分の演奏時間を持つ5つのトラックは、音楽の姿とし
てはノイズ的ドローンのみによるどこまでもシンプルで大胆な響き
なのだが、それでいて少しも奇異であったり目新らしさが感じられ
ず、何よりうるさくならないのは、結局、私たちの内に無意識に蓄
積された「音楽」以外のノイズの聴取体験に似た響きだからなのだ
ろうか。

騒音のマスキングとしてのBGM放送は「音楽」それ自体を深く聴
こうとするリスナーには、時には嫌悪さえ呼び起こすが、このディ
スクはどうだろう。一般的な意味合いでは「音楽」ではないかもし
れない。しかし邪魔にもならず、邪魔な音を中和させてどこかへ持っ
ていってくれる。
「このCDで雑音を消して他の音楽をかけたりしたら、どうなるだ
ろうか?」そう、これは「音楽を聴きながら聴く音楽」などと言っ
てみることが冗談にならないかもしれない音。

音楽であることをやめた、最良のアンビエント・サウンド。そして、
ある意味で最も音楽的なバックグラウンド・ノイズ。

筆者がこのディスクを知る機会を与えてくれたサイト『ZN3』トップページ
は、こちらです。同サイト内にあるこのディスクの紹介記事はこちら。ぜひお
読みください。<身体>へ、私が書いた文章よりずっと近づくことができます。
ダイレクト・リンクの快諾に感謝いたします。


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