Art of Noise・Claude Debussy






Art of Noise
the seduction of claude debussy
(ZTT,1999)

cover


アート・オヴ・ノイズがフランスの作曲家クロード・ドビュッシー
(1862-1918)による音楽をコラージュしたディスク。作曲者に関
するナレーションによってトラックが接続されていく。カヴァー、
サンプリング、ラップ、ドラムン・ベース、楽器を替えてのアレン
ジ、そしてアルバム全体のテーマと呼べるほどに複数のトラックで
姿を変えながら繰り返し現われるいくつかの曲、これらがこのディ
スクを構成する。

まず始めに気付くこととして、歌曲の引用が非常に多い。これは例
えば「雨」というテーマを原曲に唄わせるという、ナレーション入
りのこのアルバムへのストーリー付けの意味ももちろんあるだろう。
しかしそれ以上に、曖昧模糊としたイメージで捉えられることの多
いドビュッシーが、実は意外なほどに旋律作家であったことを思い
出させるのだ。特に作曲者が若い頃惚れ込んでいた年上のアマチュ
ア・ソプラノ歌手であるヴァニエ夫人に歌われることを想定して書
かれた初期の歌曲群は、大きく飛翔する音域の幅広さが魅力であり、
ピアノや管弦楽のディスクに比してあまりに少ない歌曲録音に代わ
って、このディスクは彼のこのジャンルの周知に役立つとさえ言える
かもしれない。

AONがドビュッシーにアンビエントを聴き取っていることも確か
なようだ。ピアノ曲のある部分を取りだし、そこにリヴァーブをか
ける。エフェクトによってアコースティックピアノ以上にアンビエ
ント的な空間を作り出していて、原曲に戻って聴くとそちらが物足
りなくなるくらいだが、同時にオリジナルが持っていた残響の豊か
さに改めて気付かされる契機となるような響きの強調なのである。
例えば前奏曲集第1巻の『音と香りは夕暮れの大気に漂う』、ボー
ドレールの詩句から取られたまさにアンビエントなタイトルを持つ
この曲でなど、ドビュッシーは90年も前に(1910年初演)ピア
ノ一台から浮遊する残響を発生させていたのだ。現在にこそ聴きた
い音楽が、ドビュッシーの作品リストには多い。

久しぶりのニューアルバムでドビュッシーを全面的に取り入れたと
いうことについて思いをめぐらせることは、彼らの音楽を聴いてき
たリスナーなら誰でも感じる誘惑だと思うけれど、まずなにより、
これまでの作品をその解答として読み取れるのではないだろうか。
「アンビエント・コレクション」での自然環境音と人工音のコラー
ジュなど、その複雑さにおいて一般のアンビエント作品よりもはる
かに「楽曲」へと仕上げようという快い意図が感じられるなど、環
境音やノイズそのままの提示ではなくそれを聴いた記憶を音の再構
成を通して辿っていくという、まさにドビュッシーがしていたこと
に極めて近い感触を持った音楽を作ってきたアート・オヴ・ノイズ
なのだから。



主な原曲ネタは以下の通り。ライナーに記載がないので参考までにメモしてお
く。

■ピアノ曲
『ピアノのために』第2曲「サラバンド」
(トラック1、5、8など、下記の「ちまたに〜」とともにこのディスクの中
心を成すモティーフである)
『前奏曲集 第1巻』より第4曲
「音と香りは夕暮れの大気に漂う」(トラック6、7、13など)

■歌曲
『忘れられた小唄』第2曲「ちまたに雨の降るごとく」
(トラック1、10、12など)
『華やかな宴』より第1曲「ひそやかに」(トラック4)
『ビリティスの歌』より第1曲「パンの笛」(トラック9)
『ロマンス』(トラック11)

・ほかにオーケストラ曲『海』やピアノ曲『子供の領分』などが部分的に登場
 する。

May 28 2000 shige@S.A.S.





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