灰色の雲



空が灰色に煙っている。渦巻き流れる大きな模様が見
える。大理石のようでもあり、墨流しの淡い階調も思
い出させた。上空に昇っていくと、それは白い空に舞
う無数の黒い粒の流れているものだった。

わたしの顔や腕にその粒子が当たる。液体のようなも
ので、暖かい。八月の風のない大粒の雨に降られると
きに似た心地に、さらにひとつひとつの粒を凝視する。


整然とした運動のように見えた粒子は、ほんとうは灰
のように迷いながら動いているのが見える。粒がまぶ
たや素足にもぶつかる。そのひとつひとつが音を出す。

おおきな渦巻きは、微かな音の連続でもあるように思
われた。しかしそれでも、地上の雨音のようにどこま
でも拡がりを持つ、どこまで歩いていってもいつも聞
こえることを思わせる広大な響きではないことにすぐ
に気付いた。

粒は、はじめに見えたように地面に落ちてはこない。
地上は鳴っていなかった。

その響きは、黒い粒がわたしの身体に降りた時にだけ、
微かな光沢を帯びて、小さく鳴り続ける。それらが集
まって、音の連続がわたしにだけ見えたのだった。そ
れは肌にはじける鋭さと、吸い込まれる静けさが混ざ
りあう響き。

たぶん、わたしがいるから、音になった。
空を見上げても何も聞こえない。
そのただなかにいて、はじめて生まれえる音だった。





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