Carl Stone
Carl Stone
"Four Pieces" (cover left)
(EAM DISCS,1986-1989)EAM DISCS 201
"MOM'S" (cover right)
(NEW ALBION,1992)NA049CD

切り詰められた素材とその変容
1953年生まれ。ロサンジェルスを中心に活動。日本滞在の経験が
あり、その間集められた音素材を用いた作品『Kamiya Bar』が
リリースされている。音楽製作は主にマッキントッシュを使用し、
サンプラー、シーケンスソフトなどによるカットアップ作品が多い。
いわゆるコラージュ音楽には、一曲の中に様々な音素材や音楽の断
片が盛り込まれたものが多いが、それらは制作者が素材に用いたレ
コードの多様性を示すことはできても、結局のところ個人的な記憶
や思い入れ、制作者の描いた物語性に大きく依存した、他者から見
ればカオスの域を出ないものもある。
その点、カール・ストーンの音楽が音楽としての自律性(音楽それ
自体としての流れ)と一つの曲に特徴的な統一された音色を持ち得
て、何より聴いていて気持ちがいいのは、それはごく少ない素材の
慎重な選択と吟味によるのだろう。選ばれた少ない材料から引き出
されるグラデーション、あるいは突然の鮮やかな変化に耳を奪われ、
新鮮な時間感覚をもたらす。多くの素材を用意し、複雑に構築でき
ることも音楽家としての資質のひとつではあるけれど、少ない音素
材を音楽へと昇華させることの難しさはつい忘れがちである。
例えば"Hop Ken"*ではムソルグスキー『展覧会の絵』のオーケスト
ラ編曲版(本来はピアノ曲。ラヴェルによるオケ版のほうが有名)
が音源として使われているが、冒頭の聴き慣れた「プロムナード」
のメロディがいきなり途中でカットされ、繰り返されるうちにさら
に細かな断片へと切り刻まれていく。しばらくするとリズムが突然
変化して、ここまで聴き進むともう、どこのサンプリングなのか推
側することをあきらめてしまうが、よく聴くと切り離されてはいる
がまだ「プロムナード」の旋律なのであって、カットアップの処理
はきわめて有機的で熟慮されていることがわかる。そして曲の終わ
りでは元ネタでも終曲である「キエフの大門」が原曲からは想像し
えなかった鮮やかなビートへと組み替えられる。
*"Four Pieces"に収録。
サンプリング/カットアップから生じる複雑だけれど滞ることのな
いビートが、カール・ストーンの音楽の大きな特質だ。微妙な変化
を伴いながらの(ループ1回ずつわずかに持続時間を引き伸ばすな
ど)素材の加工によって有機的な音楽の時間的つながりを引き出す
彼の音楽は、シンプルなループ・パターンから得られる身体感覚と
はまた別種のグルーヴ、濃密さがにじみ出る。電子楽器による音楽
が非人間的な無機性の音楽をストレートに意味するなどと、だれも
言わなくなった現在、それでもなお、やはり彼の表現する音には最
新の感触を発見することができるのだ。
それはデジタル技術が行き着くほどにアナログへと近づくという、
現在のテクノロジーに共通して見い出されるあの方向性である。
・h o m e・
・minimal・