Wim Mertens






Wim Mertens
"best of"
(Crepuscule,1997) TWI 1051

cover


1953年、ベルギーに生まれたウィム・メルテンは、いわゆるミ
ニマリズムを用いる作曲家の中でも際立って幅広いレンジを持った
一人である。『アメリカン・ミニマル・ミュージック』という著作
を持っていることからも、研究者・評論家としての立場からミニマ
リズムに対して客観的な姿勢を持ち得ている。つまり音楽のスタイ
ルや手法を客観視し「選択できること」が、むしろ自己の音楽を自
在に展開させ得る強みになっているのだろう。その「自己」の部分
に、メルテンの強烈な主観性が発揮されている。確かに他の作曲家
の影響を聞き取ることはできる。たとえばメルテンのアーチ状の反
復音型はフィリップ・グラスを思わせるかと思えば、デビュー・ア
ルバム『フォー・アミューズメント・オンリー』ではピンボール・
ゲームやインベーダーの音声をライヒ風にずらしてみたりと、作品
としての自律性(つまり音楽的面白さ美しさ)を持ちつつ、他者に
よる音楽語法の検証が顔を出すことがある。しかし一聴してそれと
わかるメルテンの響きがある。それはまず第一に深い叙情であり、
そして繰り返しは眩惑的効果をではなく、音楽におけるきわめて伝
統的な「高揚」、あるいは突然の転調の劇的効果のためのものと思
える。あるいは反対に、比較的長く歌謡的でさえあるメルテンのフ
レーズの繰り返しは、緊密な連続というよりもむしろ、緩慢さへと
向かう傾向も持っている。

彼の音楽の形態は、小品の機動性から大規模なアンサンブルまで、
そしてクラシカルな語法との融合やポップ、アヴァンギャルドに至
り、さらにはピアノと自身のファルセット・ヴォイスによる作品群
が大きな柱となっている。前述の通り、メルテンは自身にとっての
ミニマル語法を音楽学的に開発し突き詰めること(それは著述によっ
て分析を済ませたことなのだ)よりも、主観的クセを伸び伸びと既
存のジャンルの上に展開させている。彼の音楽の持つそのあまりに
大きな振幅はそのまま、現在ポピュラー/非ポピュラーの区別なく
大きな影響力を持つ「ミニマル的なもの」のさまざまな局面の縮図
のようでもある。

ここではそんなメルテンの音楽を概観できる、上記のベスト盤を挙
げておくことにしたい。






・h o m e・ ・minimal・