佐藤聡明






佐藤聡明は1947年、仙台に生まれた作曲家。独学で作曲を始め、
現在の作風はミニマリズムと神秘主義への接近が感じられるが、前
者は特定の作品に顕著な傾向であって、氏の音楽全体をミニマリズ
ムの中に位置付けることは難しい。むしろ、非常に息の長い旋律が
生み出す緩やかな感触と、音楽の内に贅沢に配置された長い沈黙こ
そ、佐藤の音楽の本質ではないだろうか。


佐藤聡明 (Sato, Somei)
「リタニア」("litania")
(NEW ALBION,1988)NA 008CD


cover

1 The Heavenly Spheres are Illuminated by Lights
2 Birds in Warped Time II
3 Incarnation II
4 A Gate into the Stars
5 Litania

トラック1・2はそれぞれソプラノとヴァイオリンとが非常に長い
旋律線を持っていて、上空を舞うように流麗である。特に後者
"Birds in Warped Time 2"では、背景に細やかな霧にも似たピア
ノによる伴奏が繰り返され、自由な線を描くメロディとの対比は非
常に鮮やかである。これらはミニマルの手法に基づく作品ではなく、
佐藤の広々とした空間描写を味わう音楽に属する。

トラック3は、佐藤のミニマリズムが顕著に現われた作品である。
ピアノの点描的な細かい音にディレイをかけることで音がブレを伴
いながら倍加し、フレーズの組み合わせと、鳴らされた音のディレ
イによる自己反復の双方の意味で反復する。これはミニマル・ミュー
ジック的感触であるのと同時に音の輪郭が曖昧になるためにアンビ
エンスの深い空間の広がりをももたらす。このことは同様にディレ
イを用いるウェイン・シーゲルの作品にも言えることだが、シーゲ
ルはアンビエンスの深さとミニマルのリズムのタイトさの両方を追
及しているのとは対照的である。また、ディレイの扱いも、プレイ
バック音を反対のチャンネルへとシフトさせることによって生じる
細かな音の移動が一層響きをにじませているシーゲルとは異なり、
佐藤は原音とディレイの結果を左右のチャンネルに振り分けること
はなく、響きの運動性は少なく静的で、音像はより明確である。

このように同様の手法を用いながらもずいぶんと違った感触となっ
ており、こうしたライヴ・エレクトロニクスによるミニマル・ミュー
ジックの追及には可能性の大きさが感じられる。例えばここでのよ
うに、ディレイという現在さほど高度ではなくなったテクノロジー
を使うことでも結果に大きな差異と驚きを生じさせる点で、技術の
援用を受けるその方法が作曲家の独自性の一部となることが証明さ
れているのだから。


佐藤聡明の作品は現在、サンフランシスコのニューアルビオン・レーベルから
4枚リリースされている(一部日本のフォンテックからも同音源がリリース)。
前述のように長い旋律と沈黙(それはアルヴォ・ペルトの簡素な様式にも似た)
が美しい作品群である。神秘主義への傾倒も、それは作曲のテーマの段階まで
にとどまるかのようなある種の抑制があり、結果としての響きは純粋な音響へ
と昇華しているように思われる。


February 19 2000 shige@S.A.S




・h o m e・ ・minimal・