Terry Riley
The Harp of New Albion
(Celestial Harmonies,1986)CEL 018/19



このピアノソロによる即興演奏でも、あらかじめ用意されたモデュー
ル(このディスクではライリーは「ムーヴメント」と呼んでいる)
とその組み合わせが、ミニマルを越える豊かな音楽を紡ぐ。

純正調律のピアノは、倍音の倍音までが澄みきる。ピアノの音とい
うよりも、正しく協和するように調律された金属片を鳴らすような
響き。この音がどこかピアノらしくないのは、平均率に慣れた耳、
つまり不協和が「濁り」ではなく「うねり」という音楽の要素にい
つのまにかなってしまった歴史のほうにこそ、耳は音楽らしい音と
して反応するようになったからだろうか。どこか耳に引っかかる毒
のような刺激を、平均率は持っているのだ。それは純正率とは別の
魅力であることを思い出させる。

ジャズの即興演奏にとても近い音楽であるという印象が強いのは、
ムーヴメントがここでは「リフ」と言い替えたくなるような何かと
して作用しているからかもしれない。厳密に展開を考え抜かれた音
楽ではなく、ムーヴメントの接続するときに現われる即興的な経過
句(小フレーズ)がジャズ的なのである。例えば、キース・ジャレッ
トのあの『ケルン・コンサート』。これをミニマルだと言うつもり
は全くないが、少なくとも「反復すること」「反復を繋ぐ際の即興
性」などの共通点は見い出されるとは言えないだろうか。しかしジャ
ズという広義の西洋音楽に近い感触を持ちながらもどこかグローバ
ルな印象を与えるのはまさに、純正調律による音の無国籍化による
のだろう。

ただただ響き渡る、伸びやかな音。

1999.12.08 1999 shige@S.A.S.




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