George Winston・As a Minimalist









▼ミニマリズムの汎用性

ジョージ・ウィンストンのアルバムの多くに、"Special Thanks"
としてスティーヴ・ライヒの名がクレジットされてきたことにお気
づきだろうか。近作『フォレスト』の1曲目"Tamarack Pines"も、
ずばりミニマル・ミュージックの範疇に収まる感触を持ち、
"influenced by the work of composer Steve Reich"
とウィンストン自身がライナーで述べている。

記録的セールスを続ける彼の作品群だが、リリース元であるウィン
ダム・ヒルという当時実にタイムリーな登場を果たしたこのレーベ
ルが、あの全ての始まり『オータム』と共に知られることとなった
1980年頃は、ちょうどスティーヴ・ライヒがドイツのジャズを
主体とするレーベルECMから3点のアルバムを発表することで、
「ミニマリズム」という行き詰まった実験・前衛音楽界にとっての
特効薬(効能は「調性と聴衆の回帰」?)を提示したのとほぼ同時
期だった。いま思えば。ライヒほかミニマル作曲家のポピュラー・
ミュージックへの影響はここで確認しておく必要のないほどの大き
なムーヴメントではあるけれど、ピアノ・ソロという地味なジャン
ルで、しかもこれほど多くの人々に受け入れられることになるウィ
ンストンの音楽にもミニマルの残響が聞き取れることは、決して偶
然などではない。ミニマリズムが現在の音楽のいちばん重要で最も
使える音楽的発想のひとつだからである。


▼ミニマルというクールネス、ピアノという叙情

大ヒットの理由としては、従来のイージーリスニングに多い感情の
ストレートな表出に比較してはるかにドライな音楽の姿(それは
「人間ドラマ」的なものではない、四季や自然といった非人称的コ
ンセプトによるところが大きい)、そしてそのコンセプトが各作品
で非常に明快であること、TVで頻繁に流されたことなど以外にも
さまざまな要因があるだろう。そして最大の理由は、やはりミニマ
リズムの持つ効果によるのではないか。

現在売れる音楽とは、「どちらかはハズす」ことが条件ではないか
とつくづく思う。甘い旋律をクールなアレンジで処理したり、反対
に簡素なメロディを柔らかに歌う(エリック・サティのシンプルな
音楽がさまざまにアレンジされてきたことを想起されたい)、と言っ
たような。ウィンストンの音楽のひとつの柱としてカヴァーがある。
彼のアルバムに現われる旋律には、様々なジャンルから選ばれた音
楽に、多くを負っているものがある。そしてそのアレンジの手法が、
ミニマリスティックなのだ。聴き慣れたメロディは、空虚に刻まれ
るミニマル語法を用いたアレンジによって中和される。そしてロマ
ンティシズムを抑えた演奏−それはもうピアノの打鍵・響きそれ自
体に音楽の意味を持たせるという、ほとんど即物的なまでに淡々と
澄んでいる−がもたらす美しい音色によって、どんな音楽も自身の
音楽として響かせる。ミニマルの単純性は本来大仰なピアニズムと
は縁遠いもので、ストリングスと絡むドラマティックなピアノに食
傷することも、彼のディスクを聴いている時にはありえない。


▼完成された<現在性>

そして前述のように、まるでドラマを排除するかのような、常に人
間不在の風景ジャケット。タッチと録音の熟慮がもたらす音色は、
秋はクリアに、12月は冷たく、冬から春にかけては、トラックひ
とつごとに暖かさを増すかのような。どの側面を取っても、高度に
練上げられた同時代の音楽なのだと思う。だからこそ彼の音楽のリ
スナーが、従来のピアノ・イージーリスニングよりもはるかに広い
層に分布しているのだろう。クールネス、非人称性、叙情性、歌謡
性、そしてミニマリズムの影響も色濃く鳴らされる「ピアノの快楽」
が、ジョージ・ウィンストンという音楽現象の中で共存していると
言えるのではないだろうか。


▼以下、ミニマル的トラックを各アルバムから抽出すると

・Autumn (1980) より
 "Woods""Sea"
・Winter into Spring (1982) より
 "Rain"
・December (1982) より
 "Carol of the Bells"
・Forest (1994) より
 "Tamarack Pines"
・Ballad and Blues 1972 より
 "Untitled"

ミニマリズムの数ある語法のうち、特にスティーヴ・ライヒ『18
人の音楽家のための音楽』『オクテット』などで聴かれる加算プロ
セス(フレーズを構成する音を徐々に一つずつ増やして完成させ、
次のフレーズへと移っていく)の手法によるものが多いが、一番下
の"Untitled"は、これはウィンストンのオリジナルとしか言いよう
がないのでないか?垂直の(つまり同時に鳴らされる)和音を平行
につなげていくいわゆるコード進行(それも、実に美しい)のパー
トと、彼のピアニズムを現在まで特徴づけている、あのトレモロの
パートが交互に現れる曲。意味性を剥奪したいかのような、極度に
そぎ落とされたわずかな素材から成り立つ、ある種のミニマル・
ミュージックである。タイトルも全く素晴しい。曲名などなくても、
音それ自体が美しいのだから、これで十分である。最大のヒット作、
『オータム』の2曲目「森」("Woods")も、二つのパート(ひとつ
は幾分旋律的、もうひとつは和声的な)が交互に現れるという構成
上の点でよく似ていて、こちらもクリアに抜け切る空気感(まさに
秋の空)を持ち、青空を見上げたくなる響き。







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