「中国新聞」

「議会のカルテ」
広島市議会編
5.OBから

「市政の監視人」自覚を
利益誘導、危険はらむ

 「今は市議というより区議。いや、支援者のエリアでいうと町内会議員かなあ」

 通算二十年間、広島市議を務めた山口氏康さん(80)=西区井口明神=の現役議員評である。

 自らは議員時代、「めぎ(壊し)屋」と呼ばれた。議会が審議する年間百数十件の議案に対し、賛成するのは「三十件ぐらい」だった。

 「市政全般のチェックが議員本来の仕事」。一人会派を貫き、一般質問は欠かさなかった。「円滑」な議会運営を妨げ、市職員や同僚議員には煙たがられた。

 初当選から二年後の一九七三年。市政調査研究費(現在の政務調査費)導入を前に、保守系会派の幹事長が「一人会派には支給しない」と言ってきた。「『いいですが、使い道は聞かせてもらう』と返答すると、すぐに私へも支給されることになった」と笑う。

     ◆  ◇

 市土地開発公社の用地取得に絡む七七年の汚職事件、八〇年代後半に浮上した市現代美術館の高額美術品購入問題など、市を揺るがす問題を「告発」していった。広島アジア大会(九四年)を控え、だれもがバブル経済に浮かれたころも、起債を使っての都市整備を批判。「起債は借金。必ず、つけがくる」と警鐘を鳴らした。

 だが、地域住民や後援会に、受けはよくなかった。政令指定都市になって最初の市議選があった八三年、選挙区が全市から区単位に変わり、山口さんは落選した。四年後に返り咲いたが、九五年にまた落選した。

 「不景気だから市民は我慢してくれ、って演説すると、『落ちるから言うな』って言われた。選挙には弱かったよ」。今も「市政の監視人」としての自負から、市政の課題を問う季刊誌「市民生活」の発行を続ける。

     ◆  ◇

 各区それぞれ五千票とされる「当確ライン」を目指し、議員たちは奔走する。地域から持ち込まれるさまざまな要望を市に伝え、実現を働き掛ける。だが、地域代表の度が過ぎたりすれば、「利益誘導」へと振れる。

 七五年から三期連続で市議を務めた別のOB(76)は「選挙が区単位になってから、他の区の住民からの相談はなくなった」と振り返る。

 道路やがけの改良工事の陳情を受け、台風が接近すると地域をパトロールした。住民要望を書き留めた大学ノートは十二年間で八冊分。数千人と面会した記録は、今も大事に保存してある。

 「住民の『ご用聞き』も議員の宿命。(選挙に)通ってなんぼ、だから」。それでも、「地域に密着する『ミクロ』と市政全般をチェックする『マクロ』の両立に苦労していた」。

 このOBも山口さんも、現役へのメッセージは、同じだった。

 「権力の中でする仕事だから人一倍、努力しないと。もっともっと勉強してほしい」

おわり

 市議会編は木原慎二、城戸収が担当しました。


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広島市議会編
5.OBから

「市政の監視人」自覚を
利益誘導、危険はらむ

 「今は市議というより区議。いや、支援者のエリアでいうと町内会議員かなあ」

 通算二十年間、広島市議を務めた山口氏康さん(80)=西区井口明神=の現役議員評である。

 自らは議員時代、「めぎ(壊し)屋」と呼ばれた。議会が審議する年間百数十件の議案に対し、賛成するのは「三十件ぐらい」だった。

 「市政全般のチェックが議員本来の仕事」。一人会派を貫き、一般質問は欠かさなかった。「円滑」な議会運営を妨げ、市職員や同僚議員には煙たがられた。

 初当選から二年後の一九七三年。市政調査研究費(現在の政務調査費)導入を前に、保守系会派の幹事長が「一人会派には支給しない」と言ってきた。「『いいですが、使い道は聞かせてもらう』と返答すると、すぐに私へも支給されることになった」と笑う。

     ◆  ◇

 市土地開発公社の用地取得に絡む七七年の汚職事件、八〇年代後半に浮上した市現代美術館の高額美術品購入問題など、市を揺るがす問題を「告発」していった。広島アジア大会(九四年)を控え、だれもがバブル経済に浮かれたころも、起債を使っての都市整備を批判。「起債は借金。必ず、つけがくる」と警鐘を鳴らした。

 だが、地域住民や後援会に、受けはよくなかった。政令指定都市になって最初の市議選があった八三年、選挙区が全市から区単位に変わり、山口さんは落選した。四年後に返り咲いたが、九五年にまた落選した。

 「不景気だから市民は我慢してくれ、って演説すると、『落ちるから言うな』って言われた。選挙には弱かったよ」。今も「市政の監視人」としての自負から、市政の課題を問う季刊誌「市民生活」の発行を続ける。

     ◆  ◇

 各区それぞれ五千票とされる「当確ライン」を目指し、議員たちは奔走する。地域から持ち込まれるさまざまな要望を市に伝え、実現を働き掛ける。だが、地域代表の度が過ぎたりすれば、「利益誘導」へと振れる。

 七五年から三期連続で市議を務めた別のOB(76)は「選挙が区単位になってから、他の区の住民からの相談はなくなった」と振り返る。

 道路やがけの改良工事の陳情を受け、台風が接近すると地域をパトロールした。住民要望を書き留めた大学ノートは十二年間で八冊分。数千人と面会した記録は、今も大事に保存してある。

 「住民の『ご用聞き』も議員の宿命。(選挙に)通ってなんぼ、だから」。それでも、「地域に密着する『ミクロ』と市政全般をチェックする『マクロ』の両立に苦労していた」。

 このOBも山口さんも、現役へのメッセージは、同じだった。

 「権力の中でする仕事だから人一倍、努力しないと。もっともっと勉強してほしい」

おわり

 市議会編は木原慎二、城戸収が担当しました。


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