島根への帰省、ばあちゃんちに泊まる日の夕べ、夕飯までにはまだ少し時間のある5時、従兄弟の兄ちゃんが『ちょっと行くか?』と言えば阿吽の呼吸、従兄弟の子供のとんちゃんも連れ、川へと車を走らせた。現地までは10分ほど、車道から川を見下ろし状態を探る。時折ヒラを打つ魚は紛れもなく鮎だ。苔を食む瞬間、魚体をくねらすので遠くからでもすぐ分かる。早速渓流用足袋を履いて川へ降りた。
明るいうちの投網は少し苦労する。網をかけても魚が岩の下に潜るためにやっかい。そこで分担作業となる。まず打ち手、そして捕り手。捕り手は軍手を手にはめ、水中眼鏡を装備。軍手はヌルヌルした魚を逃がさない。そして捕まえた鮎を保管する容器を持つ係。3人の連携がうまく行ってこそ漁獲は上がる。
水温の上昇する夏、鮎は淵に限らず流れの早い瀬にもいるのだ。淵にはやや大型の鮎、瀬には中型。兄ちゃんが打つ網にすかさず寄り、投網の袋状になった部分に掛かった鮎を手際良く捕まえる。網に頭を突っ込んだ鮎は頭から網の目を抜くようにするときれいに外せる。網に掛からぬ鮎は水中眼鏡で追い、岩陰に隠れた鮎は手掴みにする。軍手をしていると意外と簡単に捕まえられるのには正直驚きだ。外道にはムギツク、イダ(ウグイ)、ハエ(カワムツ)、ツガニが掛かるがそんなものに気を取られている暇はない。なんせ川の女王、鮎が相手なのだから。良い苔のついた岩を狙うと4、5匹の鮎が入る事もあるが、網からすり抜けるやつも多く悔しい思いもする。もちろん空振りもあるが基本は良さそうなポイント、あるいは目で鮎を見つけてバサッーという感じ。そんなこんなで1時間半ほどで200メートルくらい川を上りながら18尾の鮎を捕らえた。相模庵の軍手から鮎独特のスイカの香りが広がった。
家に帰ると親父が炭火をおこしてまだかまだかと待ちくたびれていた。踊り串にして塩焼き、ジュージューと音を立てて焼ける身に心踊り、その日のもうひとつのメインディシュであるこれまた従兄弟の仕留めた猪肉とともに最高の酒の肴となる。鮎の香ばしく焼けた皮はパリパリとした感触、川魚にしては全く臭味がないのも彼らがケイソウを食べる植物性ゆえ、またそのハラワタはウルカと称される珍味は日本酒党には応えられぬシロモノ。この日は総勢19人の親戚が集まり当然の如く酒量も増えたのであった。
ところが酔いも回った10時をすぎた頃、鮎取りに行けなかった親戚が俺を連れてけという。話が出たらみんな嫌いじゃないので酔払い運転ですぐさま川へ。鮎の投網は昼より夜の方が簡単だ。夜は掛かった鮎が懐中電灯で照らせば良く見えるし岩の陰にも入らない、太陽の光もなく水面が乱反射しないのでバッチリ。しかし酔っ払いが川の中を歩くとどうなるか、苔で滑ってずぶぬれになるもの、腰がおぼつかないもの、大騒ぎだ。そんな酔狂たちにも鮎は応えてくれて日付が変わるまでに29尾仕留める事が出来た。心が躍るのは釣りでなくてもいいんだ、でもそれはなぜなんだろうと思えた時間。(断り:この川は漁業権設定なしの川です)
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