タイトル:奥会津振興のあり方とその具体的提案
執筆者 :川瀬輝雄
一 外から見た「奧会津」私観
私たちが旅をしていちばん心惹かれるのは、その地の人々が心豊かに暮らしている様を見ることである。それは旅人の見た目であり、その人の情緒であり、価値観によるものである。当然のことながら、そこに暮らす人々のそれとは異なる。旅人にあるのは観光という「一時的滞在」であるが、住民にあるのは毎日の「生活」そのものだから、そこに求める期待と価値観は自ずと異なる。
外から見た会津は、旅人を惹きつけるものを十分にもち人々の郷愁を誘う。奧会津には更に色濃くある。
かつて三五年ほど以前に、わたくしは桧枝岐村を訪ね、帰路尾瀬に抜ける旅をしたことがある。山坂難路をバスで乗り越えた記憶があり、当時は「秘境」と呼ばれていた。
「秘境」は外からみたときの形容であり、旅人はそこに自然豊かで素朴な「桃源郷」を見た。おそらく地域の人々にとってはそこを「秘境」とは自ら誇らしく言いたくはなかったであろうし、まして「桃源郷」とはほどと遠く、交通ひとつをとっても「難渋の地」であったに違いない。――と想像するのも外からの感覚であるが。
今は、東北新幹線、東北自動車道、上越新幹線、関越自動車道、さらには磐越自動車道に囲まれ、秘境といわれた桧枝岐村をも適度な距離感をもって外の人々を近づけている。
ここ数年、いく度かこの「奧会津」が好きで訪ねている。 当然ながら「秘境感」は薄れその変貌は大きいが、その間の我が国全体の変化を考えれば、相対的にあまり「変貌」していないのではないかと思われる。
しかし、奧会津の地一体を外から見る目と、地域からの情報発信は確実に変化しつつあるのを見た。
この秋、寄稿にあたりあらためて奧会津九か町村を訪ね、それぞれの役場・商工会館・物産館などを見学し、地域振興のあり方を考察してきた。
九か町村連帯の発想はすばらしく、その活動も着実に成果をあげているやに感受した。同時に各町村がよい意味で競って自らのメッセージを情報発信しているようにも身うけた。
それらを通じて感じたところを率直に述べ、奧会津振興のあり方について提言するものである。
二 地域振興に期待する内外の“思い”の違い
(地域からの期待)
南会津には、多くの日本人がもつ“ふるさとの原風景”がある。
南会津の人々もそのような“外からの思い”を受け止め、理解し認識していることであろう。それは「奧会津ふるさと便」と言う企画の存在からも窺い知ることができる。“ふるさとの原風景”的存在こそが南会津がもつ最大の資源であり、資産であるといえる。
地域の期待は、その資源を元に「過疎化を阻止するため、地場産業を興し就業人口を増加させ、経済的に豊かになることによって、教育文化水準を高め福祉の向上を図り、周囲の自然環境を保持し、自らが住み生活環境を向上させたい。」ということではないだろうか。
(外から求める南会津への期待)
外から求める<南会津>への期待は何であろうか。
「手つかず自然観景観の中、ゆったりとした時の流れに身を置き、歴史に培われた文化・伝統に触れ、自然の恵みである山川の幸を味わい、“ふるさと”の情緒にひたりたい。」ということに要約される。
そこには、産業振興・人口増加は南会津のよさを破壊するものとして捉える感すらある。外から見た南会津の魅力・期待は、その観点から言えば「奧会津は過疎であることの方が好ましく、地場産業が工業化されることを好まない。生活環境も一時的な短期間の滞在にあっては余り整備されず、田舎っぽい方がよい。」とさえいうことになる。
それはまことに身勝手であり、地域に対して礼を失したもの言いではあるが、一面の事実ではある。
(期待感の相違認識)
内と外からと求めるものが相反するのではなく、「原因と結果」の関係として捉えることができる。つまり、「自然景観のすばらしさ、伝統文化のかおり、生活環境の心地よさ」に共感し、また「農林産物に自然さとぬくもり」を求める人が増えれば、地場産業が振興し地域経済の発展をもたらし、ひいては就労人口の増加・過疎化の歯止めという<結果>をもたらすことになる。
当たり前のことではあるが、<原因>が<結果>を生み出すものであり、その逆であるはずはない。地域振興はその<原因づくり>の活動であり、「外から人が来て、物やサービスが買われ、持てる資源が活用されて産業が興り、結果として就労人口が増加する」という因果関係にあるからである。
しかしながら、地域振興を図ろうとする時、観光施設の建設や産業誘致といった手段が先行し、地域に対する「外からの期待と価値観」を見失っている実例を見うけることがある。誤った先例は全国に多く、敢えて冒頭にこの問題を提起した。
三 地域振興の新たな視点
(二一世紀は<情緒的価値観>希求の世紀)
前項で地域に求める内外の期待と価値観の相違について述べたが、その限りにおいては、自然環境や地域産業の違いこそあれ全国いずれの地域にも共通して言えることである。そして、優れた自然景観や地域特産品の豊かさでは、奧会津に勝る地域は全国に数多くあり、その視点のみでは奧会津固有の魅力はアピールできない。
また、地域の「自然環境」や「地域産業」の評価は、ほぼ定まっており、多少の変化はあってもその評価を覆すことはなかな困難である。
二一世紀はやすらぎの時代とも言われ、既にわれわれの実感するところである。物質的に豊かになった現在、多くの人々が手にしたいモノは充足された。情報も都市・地方の格差なく、過剰なまでに享受できるようになった。生活時間帯は二四時間となり、若い女性にまで温泉がブームとなり、海外旅行といった時間空間も手に入れた。そして今、“やすらぎ”系の音楽がブームとなっている。それも世界的にである。
二一世紀はまた、精神的な自己確立の世紀とも言われている。自分史の著述が盛んなのも既にその現れである。原点志向と言える。
このような時代、“ふるさとの原風景”は大きな地域資源である。それが奧会津には色濃くある。将来の奧会津の発展振興を議論するとき、この“ふるさとの原風景”という<情緒価値>こそが最大の資源であり、他と差別化できる価値観として捉える意義は大きい。本稿で提案する第一点である。
(“田舎ふるさと”を持たない人口の急増)
かつて、地方から都会へと大量に人口移動した時代、多くの人々は「田舎ふるさと」を故郷として持っていた。しかし、都市集中の時代から久しく既に田舎にふるさとを持たない世代が圧倒的に増加した。都会をふるさととする人々である。田舎は父母の出身地であり、自分の出生・育成地ではない。
しかし、それらの人々にとっての“故郷”の心象風景は、都会ではなく、あくまで自然豊かな温もりのある田舎でなければならない。奧会津の地域振興を図る際に“ふるさと”訴求を提言する背景は、こうした時代認識にある。
(奧会津からの情報発信を統合するキーコンセプト)
奧会津九か町村は、いずれも自己紹介の立派なパンフレットを作成しアピールしている。地勢・自然景観・伝統行事・伝統技能・地場産業・特産品等を紹介し、同時にそれと関連した数多くのイベントプログラムを企画している。これらに共通するキーワードは、多少の表現の違いこそあれ、“ふるさと”感の訴求であろう。
その限りにおいて異はないが、現状のままでは他の地域の類似訴求を大差ない。
前3項で述べたことがらを踏まえて、あなたの“ふるさと原風景”ここにあり、ということを統一した訴求コンセプトとして明確にすべきであり、そのことを重ねて提言する。
(「奧会津ふるさと住民登録制度」の提案)
“ふるさとの原風景”を訴求すると言っても、具体的な表現手段を持たなければ人には伝わらない。
現在、各町村・団体が企画しているイベントプログラムは、提案する「奧会津ふるさと住民登録制度」を基盤として、そのうえに構築することがよいと考える。
「奧会津ふるさと住民登録制度」の創設は、本稿主旨に基づく具体策の提案である。その骨子については項をあらためて述べる。
四 「奧会津ふるさと住民登録」精度の提案骨子
ここでは、制度提言の考え方について述べる。
(地域発展のカギは、人口の増加に)
過疎の実態と現実認識を実感として持たない地域外の者が、そのことを論ずるのはいかがなものかと思うが、本稿は地域振興というテーマの故をもってお許しいただきたい。地域の評価要素・基準についてはさまざまな尺度があるが、人口の多寡あるいはその増減の傾向は測り易く理解しやすい要素である。
都市がある限り過疎地域はなくならないし、都市化が進む以上過疎化は進む。地域発展という観点からは、過疎化を食い止め人口の増加を図らなければならない。
しかし、既にわが国の総人口そのものが頭打ちとなりいずれ減少することが明らかな時、「人口」そのものの概念を「そこに住んでいる人」のみで捉えることは時代にそぐわない。ここに提案する概念は、もう一つの住民戸籍を創設しようとするものである。
現に、たとえば横浜に住んで仕事は東京でしているというように、居住人口に絶対的な意味があるものでもない。
昼間人口・夜間人口というのと同様に、自分の心を原点として持ちたい「ふるさと住民」という概念に大いに意義があると考える。その理由は本稿冒頭より縷々述べてきた通りである。
(「ふるさと人口」比率という尺度)
仮に、全国一億二五〇〇万人の人々が、住民戸籍とは別にそれぞれ一箇所ずつ「ふるさと人口」を登録したとする。その時日本全体のふるさと人口比率は=1と表すことにする。奧会津九か町村(総人口二六八〇〇人)のふるさと人口比率は、
奧会津ふるさと住民登録人口÷奧会津9か町村住民登録人口
として求められる。
新たにふるさと人口登録二六八〇〇人を得れば、合わせて五三六〇〇人となり人口は倍増する。ふるさと住民一人当たりの経済効果予測は困難であるが、町村住民の一〇〇分の一と仮定すれば、一%の経済成長効果を獲得することになり、人口指標として採り入れる意味がある。
この指標は、他が追随しない限り奧会津独自の評価尺度となろうから比較対象はないが、実現可能な高めの目標をたてて地域発展の新たな指標としたい。
地域経済の評価尺度としてもこの「ふるさと住民登録制度」を提案する意義を理解いただけると思う。目標値は以下に述べる制度の概要からイメージし試算されたい。
(「会津ふるさと希求人」の意義)
二一世紀が情緒的価値観希求の世紀であることは先に述べた。
原点志向は人それぞれに刷り込まれている“ふるさとの情景”への思慕となって出現する。奧会津にはその原風景の心象を色濃く持ち、多くの人々にそうと感じさせるものがある。
奧会津を“わがふるさとの原風景”として思慕する人々こそ、地域の発展に大切な人々、つまり奧会津にとってかえがえのない「人口」であろう。価値観を共有する人を地域の人口として捉えることは時代の感覚であり、エリアの人口を測るとき、地図上の境界線内に住んでいるかいないかということに如何ほどの意味があろうか。因みに前出の「ふるさと人口比率」が予想以上に低かったならば、その寂しさは想像するに難くない。
「奧会津ふるさと希求人口」を増やすことによって、奧会津の発展を図ろうと叫びたいのである。
五 「奧会津ふるさと住民登録」制度のイメージ
制度のイメージ的概要は、以下の通りである。
(ふるさと住民資格と登録)
九か町村に住んではいないが、奧会津に旅行をしたり特産品を購入したり、またこの地域住民の友人知人関係者などで、奧会津を“心のふるさと”としたいと思う人であれば誰でも住民登録できるようにする。
その登録イメージを具体的に例示すれば、以下のようになる。
・ 私(筆者)が奧会津を旅行して、○○村の△△旅館に宿泊をする。
・ 旅館は、「ふるさと住民登録制度」を紹介する。
・ 私はこの地を“心のふるさと”として大変気に入る。
・ そこに住むことはないが“ふるさととしての気持ちを持ち続けたい”と思う。
・ その時、△△旅館を里親として○○村の<ふるさと住民>として登録する。
(住民登録要件)
住民として登録するための要件として、以下のような事項が考えられる。
★本人事項
・氏名(個人または法人)
・生年月日 ・年齢 ・住所 ・電話番号
★里親事項
・氏名または名称
・所在地
★縁組み関係(里親との関係・登録動機など)
・来訪年月日 ・旅行 ・宿泊 ・催事参加
・物産品等の購入 ・その他の里親との関係
(<里親>資格登録)
町村内の旅館・ホテル・民宿・刊行物産館・観光地売店・一般商店・交通機関(鉄道駅・バス・タクシー)町村役場、各種団体および一般企業・地域住民などで、制度の主旨に賛同する者は、里親の資格を持っており、各町村の担当事務局に里親登録をできる。
(各町村事務局)
各町村は、「ふるさと住民登録制度」事務局及び「連絡協議会」を設置し、制度運用を統括する。(実務的にはその性格上、観光協会または商工会・物産館などが担当することを想定している。)
(<ふるさと住民>との役割関係)
この制度は、単なる利用者登録カードによる「顧客管理」ではなく、三者それぞれが所定の役割を果たし、友好的な双方向のコミュニケーションの関係を築き、維持継続することに特徴がある。このため、地域住民との関係に擬したものを提案したい。
・ 里親は<ふるさと住民>との関係を良好に保つべく<里親>としての役割を果たす。
・ 各町村は、<ふるさと住民>をそれぞれ<地域外住民>として遇する。
・ 町村事務局は、<ふるさと住民>との交流企画を立案・推進する。
・ <ふるさと住民>は、地域外住民としての権利を持つと同時に所定の義務を果たす。
・ <ふるさと住民>は、積極的に地域との交流に努めると共に、自己の親戚・友人・知人に対してわが心のふるさと<奧会津>を積極的にPRする。
★里親の役割
里親は、自己の顧客・関係者に対し制度の紹介・勧誘を行い、住民登録を受け付ける。
さらに、ふるさと住民である<里子>との交流の主体者となり、地域行事・季節催事の紹介等によりコミュニケーションはかるとともに、観光客の誘致・特産品の販売等を行う。
★町村事務局
ふるさと住民台帳を管理するとともに、制度の企画・運営を行う。具体的には、登録住民に対するインセンティブ(メリットの付与)の検討、里親と共同しての観光客の誘致、特産品販売が挙げられる。
なお、“ふるさと通信”DM、インターネット上のホームページの開設は、有効なコミュニケーション手段となろう。
★ふるさと住民
里親および事務局からの情報提供を受け、行事への参加・旅行・特産品の購入を行う。地域外住民としての認識を持ち、周囲の関係者に奧会津をPRする。
(個人情報の秘密管理)
個人情報の管理に当たっては、プライバシー保護のため、必要且つ十分な管理を行う。そのためには、登録要件の削除・省略もありうると考えられる。
六 事業活動
事業活動のアウトラインは、役割分担の項で述べた通りである。
基本的には、現在各町村・団体が企画・推進しているさまざまなイベント企画を統一したコンセプトに基づきリメイクし、より明確な方向性をもって推進することにある。
提案の趣旨に沿った事業活動は、地域に精通した関係者による検討に委ねるところである。
七 地域振興成功の要件
地域振興は地方行政の果たすべき政策事業であることは勿論であるが、ここで提言する地域振興は地域事業者が大きく関わることであり、経済的発展を図るという意味合いからもこれをビジネスとして捉えることが肝要である。
従って、成功の要件はどこまでマーケティングマインドをもって企画運営できるかにかかっていると言える。
一方、本提言は<ふるさと住民登録>という地域住民全体の意識喚起の上に成り立つ性格のものであるから、行政の役割は地域住民に対する周知徹底にある。
また、地域振興は、見方を変えれば各地方自治体・エリア間相互の競争関係という側面をもつものである。その観点からは、行政は対外的に大いにプロパガンダすべきであり、地域間の独占的イメージを確立することである。
大分県の一村一品運動の如くにであり、「奧会津のふるさと住民登録」として広く認識されれば大成功と言える。
わが愛する”心のふるさと奧会津”のご発展を祈ります。