ああ、あなたに会いたい!

『さびしんぼう』という映画は大林宣彦監督作品の中でも、好きな映画だ。
自分が撮影に携わっていながら、試写を観て涙があふれた。
しかし、ペェペェの照明助手だった僕には辛かった仕事ベスト5の中に堂々ランクインしているのである。
徹夜も多かったが、そんなことより、厳しい先輩がいて毎日説教の海に頭まで浸かっているようだった。
専門家にしか直せないライトを「直るまで帰ってくるな」と言われ、
ロケ場所のお寺の外で夜まで悪戦苦闘した。
助手の人数が足りない中、機材を取ってくるのにも仕事のできない分
これしか脳がないとばかりにダッシュしたあの毎日。頑張ったなあオレ。
ヘトヘトになってホテルに帰ると、その先輩と同室なのだ。しかも二人部屋。
起きてから寝るまで説教が続くのがいやで、撮影が終わってもなるべく部屋いる時間を少なくしていた。
そんな下っ端照明助手の僕を毎日励ましてくれた人がいた。
メークさんの助手の女性でひとつ年上だったが、通りすがったり目が合うと、
「頑張って!」と声をかけてくれた。毎日、必ずだった。
毎日毎日、必ず「頑張って!」と言ってくれる。これが頑張らずにおれますかって。そりゃ頑張りますってば。
きれいなひとだった。年上だったけど、好きになってしまって、結構きつい仕事も
励ましてくれる彼女のために頑張れたと思う。
ついに好きですなんて言えないままだったけど。
今でもあの「頑張って!」は忘れられない。本当に最後まで頑張れたのは彼女のおかげだ。
あれから、東宝撮影所で一度だけ偶然会ったきりである。
お互い仕事の途中で、通りすがり際に言葉をかわしただけだった。
あの時どんなに励まされたか、お礼もちゃんと言えないまま十数年たってしまった。
辛い現場でいつも励ましてくれたメークの助手さん、ああ、あなたに会いたい!