もう一人の俺

高校時代の話。
その日は朝からどしゃ降りの雨で、もちろん傘を持ち、いつものようにバスを一度乗り換え、
学校の前のバス停で降りて教室へ向かった。
教室に着き、自分の机に荷物を置くと、隣の席の女の子がポカーンとした顔で僕を見ていた。
「なんだよ」
「ねえ、サクライ君、なんで濡れてないの?」「はァ?」
「全然濡れてないじゃない・・」「そんな事言われても、そりゃ傘さしてればそうは濡れないでしょ?」
何を言いたいのか全然わからなかった。
「だって、走ってたよね」「え?俺が?どこを?」
「コカコーラの脇を走ってたじゃない。傘もささないで・・」
高校の近くにコカコーラの工場があるのだ。
下校のときは友達たちとワーワー遊びながら帰ることのある道であった。
しかし、バスが近くまで行くのに、朝にその道を通って登校することはなかった。
「いや、それ、俺じゃないよ。ちゃんと学校前のバス停で降りたもの。」
「いや、絶対サクライ君だったもん!」
「俺じゃないってーの!そんなことウソ言ってどうすんの。傘も持ってるし、前のバス停で降りたんだから。
だいたいなんでこんな雨の日に傘ささないかな、しかし」
「違う、絶対サクライ君だった。人違いのわけないもん!」
僕がどんなに違うと言っても、どうしても僕だとその同級生は言い張った。
その時のことはいつしか忘れ去っていたが、ある本を読んだときに「え?」と思い出したのだ。
その本は、ドッペルゲンゲル現象について書かれた内容だった。たまたま読んだ本だった。
ドッペルゲンゲルは、ドッペルゲンガーとも言うらしい。
もう一人の自分が現れるという現象である。
たとえば、予約していた本を書店に受け取りに行く。すると店員が不思議な顔をする。
「あのー、先ほどお渡ししましたよね・・」
「は?いや、僕は今初めて受け取りに来たんですが」
「いや、お客様は先ほどこられて、本をお持ち帰りになったじゃないですか」
「そんなはずはない、人違いでしょ?僕は正気だし、今こうして受け取りに来たんだから・・」
「あのー、確かにお客様です。そぞ上着も覚えています。つい先ほどの事で、勘違いじゃありません」
ということである。
その本は、そういう事が3回もあったという人が自分の体験を書いたものであった。
もう一人の自分・・・。そんなことあるのか?しかも俺のあの時の事って・・・まさかなあ・・・。
それ以来、同じようなことは僕の身には起きていない。


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