映画の学校


近頃映画の撮影を勉強する学校の生徒さん達と接することが多い。
知り合いの監督が講師をしていて、撮影現場に手伝いに来り、実習撮影のことで相談を受けたりといった具合に。
T監督の作品を観たあと、何人かの生徒さんを交えて居酒屋に行った。
「おまえらさあ、今日までに来てないやつらってどう思う?今日が最後だよ。ってことは、俺の作品を観ないで終わるって事だろ?
信じられないよ。講師で来てる監督の作品を観ないなんてさ。俺がどんな作品を作ってるか普通気になるだろう。
もしかしたら最低かもしれないぞ。観ないと批判もできないだろってんだ」
それから、いったい本気でこれから映画の撮影の仕事をする気があるのかという話になっていった。
「たとえば深作欣二監督とかだな、知ってるだろ?」
「いえ、知らないです・・」
「え?うそお!日本映画の一つの時代を作った監督だぞ。知らないっておまえ・・。なあ、監督って誰知ってるの?」
「黒沢明とか、三池崇史とか、北野武とか・・」
「そんなのは映画が好きな人間じゃなくても知ってるだろう」
彼らは何の反論もすることなく、自分の考えを主張することも、監督や技術スタッフの僕に何かを質問することもなく、
ただただ僕らの言う事を黙って聞いていた。

ある映画学校の実習製作の発表上映会を観に行き、打ち上げにも参加した。
途中から彼らの作品に出演した、知り合いでもある俳優さんも加わった。
学生達はそれぞれ盛り上がり、僕と俳優さんのNさんはずっと二人で色んな話をしていた。Nさんがふと気付いたように、
「ねえ、俺達って見るからに彼らと同じ学生じゃないってわかるよね」
「そうですね、そりゃあ」
「ってことはさ、もしかしたらプロの人達かなんかか、すくなくともどういう人か気になるもんじゃないかな。
もしかしたら何かチャンスになるかもってさ。誰も何も聞きにこないよね。もしプロのスタッフとかだったらと思ったら、
どういうご関係ですか?とかなんとか言ってくるよね普通。聞きたくないかな、現場ってどんなんですかとか、
どんな作品をやったんですかとか。だってこれからプロになりたいんだよね彼らは。俺達は昔そういう人がいたら我先に
聞きたかったよね、色んな話をさ」
「本気じゃないんじゃないですか?単純に」
それは居酒屋の場だけのことではなかった。作品の上映の合間に廊下でも、僕を知ってる学生さんが自分の友達に
僕を紹介しても、「ああ、どうも」だけで、それから何を聞かれるでもないことがほとんどだった。
Nさんがそう思うずっと前に感じていたことだった。
僕と直接の知り合いの学生さん達は、撮影を勉強しているせいもあって、どんなことでも一生懸命聞いてくる。
別れ際に、彼らに言った。
「本気で来るやつとはずっと付き合うよ。いつでも遠慮することはない」
僕らは彼らに期待しすぎなのだろうか。
僕が彼らに話す事は、最初からそう思っていた事ではない。何年も仕事をしてきて、自分なりにつかんできた事だ。
それを、彼らに今の段階で理解してもらおうと思っても無理なことかもしれない。
しかし、理解していない段階で、難しいと思ってあきらめたり、できないと悩んだりして欲しくないと思って、つい熱く語ってしまう。
今悩むことではない、今勉強するべき事はこんなことだと・・。
あの学生達の何人がこれから仲間になっていくんだろう。
T監督のことばを思い出した。
僕は熱い。いつまでも熱く生きたい。そして、一生懸命な人間が好きだ。
しかし、楽しもうよ。力入れすぎなんだな、俺は。