ジュンコ



『イタズ』という作品は秋田ロケで、春夏秋冬それぞれ何日か滞在して撮影した。
スタッフが泊まっていたのは山小屋で、36人分の2段ベッドがずらりと並び、みんな名札をつけたりしていた。
もちろん女性スタッフと俳優さんは別のホテルである。
そこで秋田の四季折々を肌に感じながら、平均1ヶ月くらい過ごしていた。

食事はまかないに来てくれる地元のおばちゃん達が作ってくれていた。
昼の弁当は毎日おにぎり二つとちょっとしたおかず、そして味噌汁。それが抜群においしくて楽しみだった。
朝の食事は個人個人で好みがある。時々はトーストを食べたいというスタッフの要望が増えてきた。
パンを食べたい人は前の日に自分の名前をノートに書いておくということになった。めでたしめでたし・・・・って・・・え?
希望者にはちゃんとトーストが用意されていた。しかし、おかずはやっぱり焼き魚・・・お、おばちゃあ〜ん。
ほら、やっぱりさ、パンにはサラダとかでしょ、ね、ね・・・。
翌日、サラダが出た・・・・・けど、ごはんの人にもおかずはサラダ・・・・って、おばちゃんてばあ〜。
次からはやっと理解してもらえた。やさしいおばちゃんは、明日は目玉焼きがいい〜なんていう希望もかなえてくれた。

別室に四畳半くらいの、流し台がついている部屋があった。
まず美術さんがちょうちんなどをかざり、照明部の僕がライトを少し持ち出してライティングし、
その小さな部屋はスナックに生まれ変わった。
時々みんなからカンパを集めて酒やつまみの買い出しに行き、録音チーフがマスターで僕が板前。
ホテルから主演の田村高広さんや桜田淳子さんも時々客として来てくれたり。

イタズとは、マタギのことばで熊のことである。マタギとは秋田に昔からいる熊の猟師で、熊は山神様の授かり物と考えられている。
熊は北海道の登別熊牧場から連れてこられ、小熊6頭と一緒に過ごした。
それぞれ性格の違う小熊を、撮影するシーンの設定に合わせて使うためだ。
遊ぶシーンは元気物、寝ているシーンは良く寝る小熊という風に。
かわいいからつい抱っこなんかすると、首に手を廻されて吸いつかれる。ものすごい吸引力だ。
「無理に離そうとするとガリッとやられますよ。息継ぎする瞬間があるからそのタイミングで離して」
そうなのかあ、しかし、くすぐったいぞ・・・あ、息継ぎした、それっ。
首についた小熊のキスマークは1週間はとれない。

冬には、成長した熊として、ものすごい大きな熊が連れてこられた。ジュンコという。
そう、ジュンコというのは熊の名前である。
設定では、最後にマタギに撃たれることになっている。本当に撃つという。
麻酔銃ではなく、本当に撃ってしまうというのだ。
映画なんだぞ。1ヶ月一緒に過ごしたジュンコを撃ち殺すってなんだ?え?どーゆー事だ?
秋田に住む、最後のマタギとも言われるマツジさんが、「ワシには撃てん」というので、地元の猟友会の人に依頼した。
僕は見たくなかったので、撮影現場から離れて犬の世話なんかしていた。
銃声が響いた。
僕は許せない。今でも許さん。いい映画である。感動する話しだ。しかし、許さん。
映画なんだもの。動物だからってそんなことしていいのか?しかも1ヶ月一緒に過ごしてきたんだぞ。
みんなどうだ?許していいのか?許せるか?誰がどう言おうとオレは絶対に許さんからなあ!


「撮影現場の出来事」目次へ       トップページへ