空白の時間


三船プロ時代の仕事仲間だった人の体験談。彼、Tさんの高校時代の話である。
Tさんの通っていた高校は、家からすぐ。走ると一分ほどのごく近いところに住んでいた。
開校記念日、彼の家に友達があつまり、ある計画を立てた。Tさんを含めて4人。
その学校にはあるうわさが広まっていたのだ。
開校記念日にはなぜか決まって雨が降り、しかし、中庭の芝生に絶対に濡れないところがある、というのである。
Tさん達は、そのうわさを確かめようとしたのだった。
しかし、うわさとは違い、その年の開校記念日には雨など降らなかった。
「なんだ、晴れちゃった。そうだ、スプリンクラーがある。廻しちゃおう」
Tさん達はこっそり学校の中庭に入り、勝手にスプリンクラーを廻してしまった。
「おい、ここ・・・」
スプリンクラーから出る水は中庭の芝生にまんべんなく降り注いでいた。しかし、確かに一部分だけ濡れないのである。
そこに立つと人は濡れるが、地面だけはほこりが立つほどであった。
「本当なんだ。不思議だよな」
原因はわからない。Tさん達は首を傾げつつ、ひとまず家に戻った。
そして、夜中に再び学校へ行くことになっていた。
もうひとつのうわさ。グランドの裏手の林のところに幽霊が出るというので、それも確かめようという事だった。
その学校は昔、軍の病院だったという。
夜中の12時。彼らは息をひそめてグランドにいた。「そろそろかな」
すると、林のところに白い影がボーッと現れた。軍の将校のような格好をしたその影は、ゆっくりと振り向いた。
「わああァァァ!!」
Tさん達は一目散に家まで走りかえった。全速力だった。
家に着いた彼らは皆、ぜえぜえ息を切らしていた。
「見たか?」「うん、見た。怖かったなあ」「あれ?あいつどうした?」
一人いない。
「怖くなって自分の家に帰ったんじゃないか?」「とりあえずなんか飲んで落ち着こうぜ」
3人はさして気にも留めず、Tさんの部屋で落ち着くことにした。
「あれ?今何時だ?」「1時・・・え?だって・・・」
幽霊を見たのは12時頃。全速力で走って帰って来たのだから、一時間などかかっているはずもない。
みんなの時計も部屋の時計もすべて1時だった。
「変だよねえ・・」
不思議なままそれからまた1時間くらい、怖かった体験を思い思いに語っていた。
バタン!
突然の音にビックリして見ると、帰ったと思っていた友達が息を切らせて部屋に入って来たのだ。
「どうしたんだよ」
「だって、お前、見たろ?」「幽霊だろ?見たさ」
「あ?なんでみんなそんなに落ち着いてるのさ」
「お前どこ行ってたんだよ」
「どこって、今みんなで今幽霊見て走って帰って来たじゃないか!」
その友達は、みんなよりさらに1時間、空白があるようだった。


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