真っ黒なだけのヒト

どんなに暗い場所でも、近くでジッと見れば大体の様子はわかるものではないだろうか。
ましてや、都会の夜は町の明かりが全くないことはほとんどない。
駅を出て、自分の住んでいるアパートへ向かう途中に、わりと大きなスーパーがあった。
スーパーの横はそんなに狭い道ではなく、自動販売機が置いてあった。
ある日、そこを歩いていた時だ。自動販売機の横に誰かいるのである。
すぐ横で立ち止まってしまう程急な気配だった。ほんのすぐ近くに僕は立ち止まった。
確かに誰かいるのである。たたずむには変な場所で、妙な雰囲気を感じてジーッと見てしまった。
おかしいのは、どんなにジーッと見てもどんな人かわからないのである。
わからないから余計にジーッと見てしまう。
どんなに見ようとしても、その誰かは真っ黒なままだった。確かに人だ。しかし、後ろを向いているにしても
こんなにどんな人かわからないことがあるのだろうか・・。
しかも、何か話しているようなのだ。何かはよく聞き取れないが、何かを話している。
しかし、その誰かはものすごい近くで目を凝らしている僕に何かをいう事はなかった。
だんだん怖くなってきた。突然ふっと思ったからだ。
「この世のモノではないのかもしれない・・・・・」
僕は走り去った。そして、別の日に再びそこに行ってみた。
その自動販売機の横は、別に目を凝らさなくてもまわりの明かりで充分様子がわかる場所だった。
そこに人が立てば、遠くからでもどんな服を着ているかくらいわかる。
どうしてあの時だけ、そこにいた誰かの様子が真っ黒でわからなかったのか・・・。

多摩川の土手でも、似たようなことがあった。
その夜、僕は一人で車を運転していて、疲れたので少し休もうと、土手の脇に車を止めた。
土手にはガードレールがあって、その脇の少し低くなったいる道だった。
タバコを吸って休んでいると、すぐ横のガードレールに誰かが腰掛けていた。
男だということはすぐにわかった。こちら側を向いていることもわかる。
しかし、どんな人かわからないのだ。確かに夜で、外灯もままならない場所ではあった。
元々暗い場所だから、最初はそれほど不思議には思わなかった。
しかし、こんな夜中に・・・。
どんな人かな・・。少し気になって様子をうかがおうとしたが、影のように真っ黒だ。
暗いから・・・?それにしても・・こんなに近いところなのに・・。
どんどん気になっていった。どんな人だ?何してるんだ?こんな夜中、こんな所で・・。
その影はガードレールに腰掛けたまままったく動かない。そして、どんなに目を凝らしても
ズーッと影のままであるのだ。
またそのときもふっと思った。
「この世のモノでは・・・」
僕は急に怖くなって車を出した。
みなさんはそういう事ってないですか?

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