三船プロの青春
照明 助手として、三船プロ(もちろん社長は三船敏郎さんだ)でずっと仕事をしている遠藤克巳さんという技師さんの弟子になった。
遠藤さんのチームは、チーフ助手の中村誠さんとセカンドの田村文彦さんが先輩で、その後も非常にお世話になった。
僕が今ショートホープを吸っているのも中村さんの影響だ。

初めての作品は、「ザ・サスペンス」という当時「土曜ワイド劇場」に対抗していた番組で、結城昌治の「裏切りの明日」が原作の
「殺人刑事が愛した女」(齊藤光正・監督、古谷一行、市毛良江、原田大二郎など)だった。

三船社長と一度だけ仕事をすることができた。「時代劇スペシャル」の一編、「素浪人罷り通るPARTV」。
殆どの時代劇が京都で撮影されている中、東京で唯一時代劇が撮れる会社と言っても過言ではないのが三船プロだった。
セットを建てられるほどのスタジオが三つと、通り、川端、長屋、そしてバス通りを渡ったところに、道場を含むオープンセット。
更に、殆どのスタッフが専属で仕事をしていた。大手の映画会社並である。

春から半年間、「暁に斬る!」という、連続物の時代劇の撮影が続いた。
北大路欣也さん、名取裕子さん、山城新吾さん、若林豪さん、五月みどりさんなどの豪華キャストだ。
毎日毎日集合時間の一時間前に出社し、先輩たちの軍手の用意や電源の準備、そして、その日に使う照明機材を、
予定表と照らし合わせて集めておく。これがなにより大事なのだ。
「暁に斬る!」と同時に、別のチームで「大江戸捜査網」を撮影しており、うかうかしていると「大江戸」の照明チームに
ライトをとられてしまうのだ。

そんなわけで、昼休みなどなかった。出前の昼食をとったらすぐさま午後の準備が待っている。
昼食は、制作部さんが注文を取りにくるまでもなく、いつも決まっていた。
オムライスの大盛り。早く食べられるし、おなかにもたれて夜までもつから。
給料日には、ちょっと贅沢にかつカレーの大盛り。
ある日、記録さんがストップウオッチで食べる時間を測って叫んだ。「うわ!二分切ってる!」
あのころ一緒に汗を流した人々は殆どの人が今も第一線で活躍している。

そして、想い出は一度には語りきれない。スペイン人や中国人のことなど、あらためて書こうと思う。
三船敏郎さんは、自分の会社を、そして映画を純粋に愛してた。
毎朝僕は掃除のおじさんに「おはようございます!」と挨拶をしていた。おじさんは誰よりも早く会社に来ていた。
何ヶ月もしてから、トイレで一緒になった。話しかけようとおじさんの顔を見た。
いつも帽子をかぶっているので気がつかなかったが、三船敏郎そのひとだったのだ。
三船プロダクションも三船敏郎さんも思い出の中だけになってしまったが、いつまでも忘れない。

暁に斬る
「 暁に斬る!」記念写真


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