電車に乗っていた。
仕事の帰りだったと思うが、深夜に近い時間で、その車両には僕と、ちょうど向かい側の席に初老の男が
座っていただけだった。
どこを見るともなく、何気なく男の様子をぼんやり見ていて、ぼんやりが釘付けの視線に変わった。
男は黙ってうつむいていた。黒っぽい服装で、ぱっと見た感じは変わったところはない。
しかし、耳だけはあきらかに普通ではなかった。
トンガってるのだ。
よく鼻が尖っているとか、あごが尖った感じの人とかいる。しかし、そういう感じじゃない。
左右の耳が宇宙人や悪魔を絵に描くときのようにクッキリトンガっているのである。
奇形と言ってもあれほどとんがっちゃうことなんかないっていうトンガリかたなのだ。
だいたい左右が綺麗に形が揃う奇形なんてあるだろうか。
あんまり不思議で、穴のあくほどじっくり見てしまった。特殊メイクなんかではない。
まったく丸みのない、完全に鋭角に尖った耳だった。
よっぽど「その耳はどうしてそんなに・・・」と聞きたかった。
降りなければならない駅に着いて、謎のまま降りてしまった。
誰に話しても真剣に取り合ってくれない。
三角定規の先みたいにトンガッた耳の男・・・・・その後二度と見ない・・・う〜む


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