奥田瑛二氏主演賞七冠パーティーにて



俳優、奥田瑛二さんが神代辰巳監督の「棒の哀しみ」と望月六郎監督の「極道記者2」で
主演男優賞を総なめにし、新宿に特設テントを張ってパーティ―を開いた。
何千人もの人が集まり、模擬店では、杉本哲太さんや秋川リサさんなどがおでんややきそばを作り、
内田春菊さんがステージで踊るような盛大なパーティ―だった。
ステージの中央には故・神代辰巳監督の特大写真が飾られていた。その写真を見ながら、
一緒にいた「棒の哀しみ」の録音技師の柿沢さんが話してくれた。
「僕、この作品で録音賞をもらったの。最初に神代組の録音技師をやれと言われたときは
すごく悩んだ。僕が神代組なんてさ、自信なかったもの。一週間悩んで、師匠と監督のところに行って
「できません、自信ありません」って言ったら、「お前がやらなきゃダメだ」って。
撮影中は毎日緊張した。でも、それで録音賞をもらったから、格別にうれしいんだ。」
全ての催しが終了して、ぞろぞろと帰り始め、ステージの前に誰もいなくなった頃、
僕の後ろで「もう・・・だめだよ」という声がした。柿沢さんだった。
柿沢さんは一人で神代監督の写真の前に行き、からだを90度に曲げておじぎをした。
しばらくしてスクリプターの白鳥さんが彼に近づくと、その手を両手で握って泣き崩れた。
一人になってからも、柿沢さんは写真の前から離れようとしなかった。
そして、写真に向かっていつまでも拍手をしていた。
僕はかける言葉が見つからず、黙ってその場をあとにした。
しばらくして、再び奥田さんと仕事をする機会があり、そのことを話そうと思っていた。
しかし、撮影中は話すのを忘れていて、打ち上げにも奥田さんはこれなかったので会えず、
直接話すことができなかったので、手紙を書いた。
こんなスタッフのドラマがあったことを。あの拍手の音がきこえていたかを。
その後会ったとき、奥田さんは感動してくれたときいた。