大阪ロケの不思議な話(四つの話)

大阪で何度か不思議な体験をしたり話を聞いた。そのいくつかをここで・・・。

二人に分かれる人

『新・悲しきヒットマン』のロケで、スタッフは全員同じホテルに宿泊し、2週間を過ごした。
或る日の録音部さんの体験である。

助手のKさんが朝方目を覚ました。多分6時前くらいだったという。
隣のベッドに寝ていた技師さんがむっくりと起きあがった。
「トイレにでもいくのかな・・」
技師さんの背中を目で追うと、確かに技師さんはトイレの方へ行くのだが、技師さんのからだから
分かれるようにして、グレーのスーツの男がスーッと出入り口のドアに消えていったという。

9階には誰もいないはず・・


坂本順治監督の『王手』の撮影で、9階建てのビジネス旅館に滞在していた。
そこは屋上に大浴場があり、そのすぐ下の9階の客室は使っておらず、電気もつけていない真っ暗なフロア―だった。
当然、エレベーターで屋上に行く時は、9階は素通りである。
しかし、時々その9階でエレベーターが止まり、ドアが開くのだ。もちろん9階のボタンなど押してはいないのに。

いつものことであれば、そういうものかと思えるが、時々だから不思議なのである。
ある日、どこかの高校の研修旅行の団体が来て、何人かのスタッフが1日だけ9階に追いやられた。
宿泊代を安くしてもらっているなどのことがあり、撮影隊がそういう目にあうことは珍しくない。

後日、その9階の部屋に寝たスタッフに話を聞いた。
「ふすまがさー、勝手に開くんだよ。掛け軸がゆれたり。それ、ポルターガイストっていうんじゃないの?」
普段9階を使っていない理由を、旅館の人は教えてくれなかった。

引っ張ったのは誰?

石川 均監督の『喧嘩の花道2』の撮影で、その日の最後のシーンを撮影していた。
私はカメラのすぐ横に座り、監督は私のナナメ後ろあたりに座り込んでいた。壁際の狭いところだった。

ライテイングの感じを見ていると、私は肩を横に押された。ちょっとどいてくれという感じだった。
あ、監督のジャマになったかな、と思ってからだを横にずらし、「すみません」というつもりで後ろを振り返った。
監督しかいないのだが、監督は真剣な顔で台本を読んでいる。しかも、私の肩を押すには少し遠いのだ。
「監督、今僕の肩を押しました?」「え?いえ、べつに押してませんけど・・」
石川監督は普段そういういたずらをする人ではない。なんだったのだろう・・・・・。

和服の女


大阪のロケが終わり、夕食を取ってからロケバスで東京に帰ることになっていた。
制作部さんが早めに出発するというので、翌日違う仕事が入っていた僕と、早く帰りたいという
カメラマンさんが3人でみんなより早くワゴン車で帰京することになった。

「せっかくだから大阪で食事していきましょうよ。ほら、前に行ったカツどんのうまいところ」
そこはカウンターだけの店で、カツどんがウリなのである。
我々が行ったときは他に客はいなかった。
奥からつめようとすると、どうぞそっちいいですよ、と、入り口側に座らされた。

食べ終わる頃にはカップルなどわりと客が増え、お勘定を済ませて外にでた。
「櫻井ちゃんさ、気にしないで聞いて欲しいんだけど・・・」
こう切り出したのはカメラマンさんだった。
そのカメラマンさんとはその作品で初めて一緒に仕事をしたので、僕のライティングについて
なにか意見があるのだろうと思った。言いずらそうにしている。

「ああ、どうか何でも言ってください。」
「いやね、ほら、僕達がここ来た時って、他に客いなかったよね、3人だけだったよね」
「そうですねえ、あとから結構来ましたよね」
仕事についてではないようだ。
「あのさ、櫻井ちゃんのひとつおいたところにね、着物着た女の人いなかった?」
「え?いやあ、いませんよ、カウンターの中の店員と僕達だけだったじゃないですか」
「そうかあ・・・いや、まあ、いいんだけど」
「よくないっすよ、いたんですか?見たんですか?」

カメラマンさんは霊感の強い人だということは知っていたので、すぐに何を言っているのかがわかった。
「気にしないで聞いてって言ったじゃない」
「気になりますよおおお」

普通狭い店だから奥から座るようにするものだと思うのだが、入り口側をわざわざ薦めた
店員に何か意図があったかどうかはさだかではない。
ましてや、店員にも見えていたのかどうかも・・・。

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