相米慎二監督の『光る女』のロケで、横須賀のどぶ板通りで撮影していた。 もう営業していないあるお店の二階の部屋で、僕は窓からからだを乗り出してライティングしていた。 ベッドに月光がさしこんでいるようにするため、窓に角材を取り付け、その先に反射用のレフをセットするのだ。 古い窓で、サッシではなく、木枠であった。 その窓のサンに両足をのせ、片手で上のサンをつかんで外に身を乗り出すようなかたちになっていた。 「櫻井、見えるか?」 「はい、大丈夫です、見えま・・・」バリッ!!!! 片手でつかんでいる上のサンがくさりかけていて、はがれてしまったのだ。 目撃したスタッフの話だと、ウワッ、バタッ、ギャッ、のほんのあっという間の出来事だったらしい。 信じないかもしれないが、その時に僕が考えたことを、全て書く。 ウワッ、からだが宙に浮いた!何かにつかまらないと・・、あ、なんかに引っかかった(電線だったという話)、 しかし、つかまることができずに逆に跳ね返されてしまった。 ありゃ、完全に空中だぞ、落ちるしかないのかあ?。こんなこと初めてだぞオイ!。 いやだぞ、ケガなんかするの。もうすぐ北海道ロケの春編もひかえてるってえのに。 冬の時のロケと違って照明部は楽だっていうし。先輩なんか釣り三昧って喜んでたぞ。 オレだってうららかな春の北海道を満喫したいぞお!! しかしあれだな、今日は徹夜の仕事だし、俺だけ先に帰らせてもらえるか・・。 ってそれどころじゃないぞお! このままだと頭から落ちることになるな、下はアスファルトだからいたいぞこりゃ。 からだを起こしてだな、まずつま先から着地するだろ?つま先がついたら次はかかとだ! そうしたら膝を曲げてクッションをきかせて、お尻をついて後ろに受身を取る、これで万全だあ! 僕は考えたとおりにした。 地面がスローモーションのように近づいてきた。 左足のつま先がついた。(よーし、次は右足)そしてかかとがついた。よっしゃ、今度は膝を曲げるんだ!) 膝を曲げ、クッションをきかせようとしたが、勢いあまって前の方に倒れていく。 とっさに右手でカバーしたが、ゴンっという音がした。頭を地面にぶつけてしまったのだ。 僕はそのままあお向けになった。意識はずーっとしっかりしていた。 「大丈夫か・・ベルトとか全部はずせ」「生きてるのかっ」 「おい!○○君!名前呼んでみィッ!名前呼べ!」(自分で呼べばいいのに・・)」 こりゃいかん、心配かけないようにと、目をあけてからだを起こそうとすると技師さんの顔が目の前にあった。 技師さんは自分の指を出し、「見えるか?これ何本だ?これは?」 「あ・・はい、大丈夫です、見えますから・・・」 僕はまもなく来た救急車に乗って病院に行ったのであった。 うそだよお、という人がたくさんいますが、本当にこれだけのことを一瞬の間に考えるのです。人間って。 |