集まってくれたプロ達



『REQUIEM of DARKNESS』という映画を作った。 僕がプロデューサーだったが、
自主映画のような超低予算の16ミリフィルムの撮影である。
ほとんどのスタッフは劇団“STRAYDOG”のメンバーでやることにはなっていたが、
カメラマン、照明技師、美術デザイナー、スクリプター、チーフ助監督はやはり
プロでなければいけなく、僕が集めるしかなかった。
ギャラはバイトにもならないくらいのわずかなものである。・・・やってくれるだろうか。
しかし、声をかけた殆どのスタッフはみんなギャラの金額を無視して引きうけてくれたのだった。

カメラマンは石井浩一さん
「そりゃあ、そんな話されたらそりゃやるよ。いいよ。」
撮影助手に高場さんを呼んでくれた。カメラの助手は素人というわけにはいかない。
高場さんは普段はチーフなのだが、たった一人でフィルム管理、フォーカス、露出全部担当した。

照明に後輩の白石君
「わかりました。頑張ります。・・・で、助手ですけど、ちゃんと照明部じゃないと大変ですよ。ギャラは決まった分
の3等分にすることにして、照明部はあと二人呼びますから」
そして、常谷君と高橋光太郎君が来てくれた。

美術デザイナーは佐々木博嵩さん。
「いいですよ、櫻井さんがやるんならやっぱりね」

スクリプターは蜷川さん。
「是非やらせて欲しいと思います。」
彼女は知り合いのスクリプターさんに紹介していただいた方だった。
毎日遅くまでの撮影で、家がある鎌倉まで送るタクシー代を出せないので、
撮影中は都内にいる友達のアパートに泊まってもらっていた。

チーフ助監督は玉利さん。
玉利さんとは面識がなく、まず会って事情を説明しなければならなかった。
「それで・・・・やっていただけるんでしょうか・・。」
「ああ・・やりますよ。やんなきゃね・・これ、たいへんですよ」

更にスチールマンに渡邊俊夫さん
「やるんですかあ、はい、いいですよ。頑張らさせてもらいます。櫻井さんですしねえ」
更に更に音楽には野島健太郎さん

「もちろん、やりましょう」
野島さんは“STRAYDOG”の舞台の音響もこのころすでに担当していた。

メークには竹本さん。毎日助手さんを連れてきてくれた。
「映画のメーク担当は初めてだからすごく楽しいんです」

事情があって名前は伏せるが、僕の後輩のすでに監督も経験しているN君も手伝ってくれた。
「櫻井さん、相談があるんです。ふたつほど話したいことが・・・」
彼は物凄く言いずらそうにこんなことを言った。
「実は、仕事があってどうしても二日間だけ現場にいけないんです。ホントにすいません」
「いやそんな、いいよ。自分の仕事なんだから」
「それで、もうひとつなんですけど・・・・。僕はギャラなんていりませんから。考えないで下さい」
なんていう男なんだろう。いいずらいのはこっちの方なのに・・。

そして、ギリギリになって、やっぱり現場の音はとっておいた方がいいという話になり、
知り合いの鴇田さんに相談してみることにした。
「あのさ、こういうわけなんだけど・・」
「いいよ、あいてるよ。うん、やるよ」
「ギャラなんだけど・・もうすでに予算厳しくてさ、エッって言わないでね・・・・・・・・10日間で、5万円・・・」
「エッ??」
鴇田さんは毎日撮影が終わってから深夜〜明け方まで音のチェックをしていた。
「仕上げどうするの?仕事の話あるんだけど受けちゃっていいのかなと思って」
「そりゃあ、受けてよ。こっちは福島音響の人達となんとかするから。どうせ仕上げのギャラなんて
払えないんだしさ、5万でやってもらった上にそこまで頼めないし」
翌日、編集試写で会った鴇田さんは
「あのさ、仕事断ったから。こっちの仕上げやらなきゃさ」
僕は今こうして書いてる間も涙が出そうだ。

彼等プロに、劇団員が数名づつ付き、みんながひとつになって作品が完成した。
自分は俳優なのにという感じはみじんも見せず、彼等劇団員は抱きしめたくなるほどよくやってくれた。

とにかく感謝。いつか必ず恩返しをするのが僕の最大の目標である。