ネコよ、お前は今日からサクラだ!

望月六郎監督作品『恋・極道』(奥田瑛二・原田芳雄)の撮影で大阪に行った。
東映京都の製作で、スタッフ・ルームは京都にあるのだが、大阪のロケが殆どだったので、
みんなは十三(じゅうそう)のビジネスホテルに泊まっていた。

2月だったがその日はのどかに晴れわたり、桜ノ宮公園で弁当のカレーを食べていた。
「ニャー、ウニャーアアア、ウウウニャニャァァァ」
「お?なんだなんだ」
確かにネコの鳴き声だ。しかし、ただごとではないような声で鳴いている。
「おーい、誰かあああ、ここにいるぞおおお!」
と言っている・・かどうかはわからんが、「九死に一生スペシャル」の再現フィルムで、遭難したネコに
人間のセリフをあてたらこうなるぞといったような声なのである。しかも上の方から聞こえていた。
「ウワ―、木に登って降りられないんだ、あのネコ。枝がおれると落ちるぞ」
もうチョット後ろにさがれば安全な枝で、逃げ場もありそうだ。しかし、のどかな公園の木の上で
孤独な戦いを強いられているネコの足はすくみ、動けないようだった。僕はその木に登っていった。

ノラネコは人間を警戒し、傍へ寄ると逃げようとするだろう。そして後ろの太い枝に首尾良く移ってくれれば
ヤツは安全。これで万事OKという寸法さってなもんである。
もう手がとどきそうなほど近くまでいくと、逃げるどころかそのネコは僕の首にしがみついてきた。
「イタタ・・爪が、爪がぁーっ」はがそうとしても首の後ろからがっしりとしがみつかれた。
ここで一緒に暴れると二人共・・、いや、一人と一匹共空中に投げ出され、地面にたたきつけられるだろう。
首に食い込む爪がずれて傷が深くならないでくれよと祈りつつ、ネコをえりまきにしたまま下まで降りた。
まだ片手に乗るような子猫はいつまでも離れようとしなかった。
「あー、こんなに人間になついてるのは捨てネコだなきっと。でもペットは飼えないんだウチアパートだし・・」
元気でいろよとネコを地上にはなした。もういかないとロケバスが出発するし・・・。
何を隠そう、僕はネコ好き男なのだ。道端でネコを見つけると立ち止まって目で会話するようなヤツだ。
「こんなカワイイネコを捨ておって、なんちゅーヤツがいるのだ」
と顔もわからぬ元の買主の身勝手さに腹を立て、しかし、その場をあとにするしかなかった。

出発間際、あのネコの鳴き声がまた聞こえた。腹へってんのかあ?あんなに鳴いて。
気になって聞こえる方を見ると、ヤツは僕を見つけてまっしぐらに走ってきて飛びついてきた。
途中の水溜りをもモノともせず、猛突進であった。
「うわっ、つ、爪があーっ」はがそうとしても、やはり爪を立てて離れない。
「こいつ、捨てられないよなー。自分のネコ好きを恨むしかないかー。貰い手見つけなきゃ」
ホテルに持って帰るわけにいかないので、製作会社の事務所にひとまず預かってもらうことにした。
ロケが終わって東京に帰る時、東京の撮影が一日あるので、その時に車に乗せてきてくれるように頼んだ。

大阪のスタッフが東京に到着の日。
「あれ?ネコは?」「え?あ・・・すんません、すっかり忘れてましたわ」
っちゅーわけで後日、わざわざ新幹線で迎えにいくことになってしまった。
京都のスクリプターさんが「桜ノ宮公園で拾ったからサクラってつけて」といってきかない。
ネコの名前はサクラになった。さくらいのウチのサクラ・・・ああー・・・・・。
さくらは貰い手が見つからないまま、ウチですくすくと育っている。
今も人間のように仰向けで寝ている。気楽なヤツめ、コラ。いやー、かわいいっすよ!ホント。

ねこのサクラ

こいつが人見知り知らずのサクラです


「撮影現場の出来事」目次へ       トップページへ