誰かが触った


その当時は、世田谷区のマンションに2匹の猫と住んでいた。
間取りも広く、快適だったが家賃も高く、引っ越しをしようとしていた頃である。
次に借りる予定の所は安いが、猫を飼ってはいけないところだった。
ペットを飼うことを許可しているところは少なく、あってもその分家賃が高かった。
こいつらを捨てるわけにはいかない・・・。2匹の猫は実家で世話をしてもらうようにしよう。
勝手な話だが、実家にいれば帰った時には会えるし、ちゃんと世話もしてもらえるだろうと考えたのだ。
猫を実家に連れて行き、一人になった。そして、当時遠距離恋愛をしていた恋人が遊びに来ることになった。
疲れているらしく、彼女はすぐに寝てしまった。電気を消し、自分も布団をかぶった。
ソファーベッドを広げて並んで寝ていたのだが、足元が沈んだのだ。
誰かが踏むと重みで沈む、その感じである。彼女は横ですでに寝息をたてている。
あれ?と思うと、誰かの手が足首を掴んだ。
なんだよー・・。そういう感じで僕はその手を振り払うようにし、誰かの手は離れた。
まったく・・・・・ん?だから今のは何?誰?
足元に気配を感じ、足首を掴んだ手を振り払うまではなんら日常の感覚であった。
ほんの少しして、やっと不思議な出来事である事に気付いたのだった。
二人以外にだれかいるのだ、ここには・・・。
彼女からもこんな話をされた。
「夕べ誰かにいろんなとこ触られた。あなたはグーグー寝てたから違うんだァと思ったけど、
なんか別に怖くなかった」
最初に猫の話をしたのは、猫など動物を飼っていると変なモノが寄りつかないと聞いた事があるからだ。
そういうことがあったのは、猫を実家にやってすぐの事だったので、それを思い出した。
引っ越ししてから、大阪で猫を拾ってしまうまでは一人だったのだが、それまでも変な事があった。
一人でベッドに寝ていると、何かの力に振り回されて引きずりまわされるような感じでうなされる夜が時々あった。
それはもしかしたら夢かもしれない。疲れていたのかもしれない。
しかし、そこに住むまではそんな事はなかったし、そして、再び猫が来てからは、
一度も同じようなことはなかったのである。まあ、それは謎であるが・・・。


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