死体安置所のノック


『法医学教室の午後』というTVの単発ドラマの撮影で、ある医大の実際の解剖室で撮影した。
その日の撮影はもう夜中で、いわゆる丑三つ時というやつである。
解剖室の脇には長い廊下があり、照明機材はじゃまにならないように一番奥まった所に置いてあった。
当時下っ端照明助手の僕は、狭くてじゃまだから表にいて、必要な時には呼ぶから待機しているように言われていた。
廊下には僕のほかには製作部さんくらいしかいなかった。
「櫻井、キャッチライト持って来てくれ!」
中で仕事をする先輩に言われ、奥にある機材置き場に指定されたライトを取りに行き、かがんだ時だった。
トントン・・・ ノックの音である。
「はい」思わず返事をした。
トントン・・・・ 再びノック。すぐ横のドアだったので、ノブをつかんで開けようとした。
ガチャガチャ・・あれ?開かない。鍵がかかっているようだ。
まてよ?・・・なんで廊下にいる僕が部屋の中からノックされて返事をするんだ?普通逆だろう・・・。
ドアにはなにか書いてある表札のようなものがあった。「死体安置室」
え?・・・・・・さっきノックの音がしたそのドアはもう音はしない。
・・・か、風か何かでそんな音がしたんだろう・・僕はとりあえずライトを現場に持っていき、外にいる製作部さんに
「ノックしたような音がしたんですけど、風で窓でもゆれたんですよねえ」と言ってみた。
「風?うーん・・・死体安置室だろ?窓なんてないよ」
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