元気な中国人スタッフ


『孫文』という中国映画の日本ロケがあった。
日本からは三船プロを中心に20人ほどのスタッフが協力し、僕も照明部として参加した。中国人は60人である。
彼らはみんな広州から来ていて、中国ではやはり、映画のスタッフも公務員なのだそうだ。
撮影はほとんどが九州でだった。
地元の人々の歓迎パーティーで、毎日のように中華料理を食べていた。普段食べられない高いものも、毎日だとさすがに飽きる。
ある日、昼食にお弁当が配られた。ああー、弁当だ、久し振りの普通のメシか〜・・・・え?
重箱のような器の弁当だから幕の内かなにかだろうと思ったのは大きな間違い。中はチャーハンだった。とほほ・・。
スタッフ、キャスト全員で、焼肉アンドさしみでパーティーをやった。
焼肉はまあ、韓国料理に近いというところで、中国のスタッフも普通に食べているのだが、なんと!
さしみまで網で焼こうとするではないか。新鮮なさしみを、極上のさしみをどーするんだあ!!
中国では、生でものを食べるという習慣がないという。日本慣れしている監督だけがさしみを生でおいしそうに食べていた。

撮影の合間に、中国のスタッフ何人かと喫茶店にはいった。
彼らは店に置いてある雑誌を見ているのだが、なにか様子が変なのである。見た事もないものを発見したような感じだ。
彼らの読んでいるのは男性週刊誌だったが、そのグラビアページで盛り上がっている。
聞くと、中国には女の水着の写真もないという。日本の雑誌のグラビアは彼らにとってはエロ本と一緒らしい。
そんな中国人スタッフ達はやけに明るい。底抜けに明るかったりする。
宴会なんかやるとその明るさは大爆発する。
「カンぺーィ」というのが乾杯。日本語に似ている。
広州の言葉の発音には、電池をデンチィと言ったり、ここら辺に日本語の原点を感じる。
さて宴会だが、乾杯したらまず、注がれた酒は一気に飲み、空のグラスの中をみんなに見せるのが彼らのマナーだという。
そして、すすめられた酒を断るのは、自分のグラスを、手でふさげばいいのだ。
中国人が作った匂いは強いが絶品のギョーザを食べながら、宴会は佳境にはいっていった。
「ヤンさーん!」と誰かが叫ぶ。
すると、ヤンさんと思われる人が立ち上がり、ヤンさんコールを浴びながら酒を一気飲みする。そして大拍手。
ヤンさんは「リーさーん!」と叫ぶ。
すると、リーさんらしい人が立ち上がり、一気飲み。それが延々と続く。日本人スタッフも参加させられ、ひとたまりもなくつぶれていた。
酒のあまり飲めない僕はそっと隠れていたのだが・・。
一時期はやったイッキはここからきたのだろうか・・・。
ついに彼らは全員が輪になり、大合唱を始める。最後まで我々日本人はついていけなかった。

ロケ最終日、中国の照明さんが、記念のおみやげだと言って色紙くらいの大きさのものをくれた。
その照明さんの顔は真っ赤で、ひじでコノコノ〜というようなことをするので、ピンときた。なんかやらしい写真らしい。
開けてみると、赤い長じゅばんをまとった女の絵だった。中国の照明さんはどうだすごいだろという感じでクックと笑っていた。
『孫文』は中国では超大作らしく、その後映画賞も受賞したということだ。