スナックのダウンライト | スナックなどの店は、天井が低い場合が多い。 天井にライトをつってしまうと、広い画角で撮影しようとするとカメラのフレームにはいってしまう。 最終手段として、ダウンライトの電球を、150wのレフレクターランプに替えることにした。 幸いロケ場所の店のダウンライトは奥行きが深くなっていて、150w球が結構隠れ、写っても 違和感を感じなかった。 ※ダウンライト・・・室内の天井に組み込まれている照明。壁に着いているものを ブランケットという。 ←ダウンライト |
カーテンが閉まった昼の部屋 | カーテンが閉まっていると、普通は光が入り込まないので、ただぼんやりと暗い部屋である。 窓の方にカメラが向いているときはカーテンにあたっている光がハイになるが、カメラが逆に 部屋の中の方に向くと、ただの四角いマンションの一室で、コントラストをつけずらかった。 光の方向は、リアルには真正面からになる。 カーテン越しのはずの光は、やわらかくなくてはいけない。 カーテンが閉まっているとはいえ、窓の存在感をだすために、左側にあるベッドの方にだけ、 低い位置からやわらかい光を四角い範囲であてた。 なんとか、昼下がりという感じが出せたように思う。 |
手本引きの賭場 | 手本引きというのは、花札のような特殊な札を使う博打である。 ある一室で開かれている賭場では、真っ白の布をかぶせた畳が縦に並べられていて、 周りに胴元を中心にズラリと博打に参加している人が座っているという設定になっていた。 真中に白い畳というのがこのシーンの最大のポイントになった。 畳の真上にスポット風に強い光を出すライトを数台並べてつり、まず賭場の最大の特徴を 強く印象づけた。 周りの人物は、その反射が下からあたって顔が浮き上がるかたちになり、いい具合に 重々しい空気をつくることができたと思う。 |
雀荘 | 設定としては、勝負している4人の周りで、仲間達が固唾を飲んで 勝負の行方を見守っているというシーンだった。 勝負に集中する4人と、周りで見ている人々とは違う雰囲気にしたかったので、 雀卓にはタングステンの光、周りは蛍光灯の光というように、 色温度に差をつけて表現することにした。 タングステンは雀卓の真上につられている電飾を生かし、蛍光灯の光は、 タングステンのライトに色温度変換フィルターをかけて 色温度が4000゜K前後になるようにしてライティングした。 室内全体が蛍光灯に影響され過ぎないようにということと、多少は力強い光にしたかったので、 本物の蛍光灯は使わなかった。 |
赤色灯のトンネル | オレンジ色の水銀灯が並んでいて、中に入ると全体がオレンジ1色になるトンネルである。 「極道記者」第一作にも同じようなトンネルが登場したが、そのときはあえてライトを使わず、 トンネルの中の光に露出を合わせてもらって撮影した。 その方がリアルだろうと思ったのだが、結果は全体がただ真っ赤になってしまっただけだった。 オレンジのモノトーンの世界を創るために、今度はオレンジとイエローのエフェクトフィルターを 併用し、なんとか肉眼で見た感じに近くしようとしたが、まあ、なんとか・・・・。 まだまだ研究の余地はあろうかと思う。 |
いつでも本番を・・ | 橋口監督の演出は実に独特で、ほぼ100パーセントに近く、役者との心の対話に始まり、対話に終わる。 対話の中で、橋口監督の心に何かを感じたとき、本番となる。 だから、芝居をかためて何度もテストを重ねるのではなく、何かを感じたときにはスグに本番なのだ。 役者がどういう動きになろうとも、いつでも本番にいけるようにライティングは体制をとっていなければならない。 ライティングの都合で役者の動きを制限するべきではないということをいやでも勉強させてくれた作品だった。 |
蛍光灯の部屋 | マンションの一室のシーンがあり、どこか寒々と乾いた部屋にしようと、蛍光灯の光を主体にした。 ポールキャットを二本天井に横に張り、蛍光灯ライトを真下に向けて乗っけた。 フィルムはタングステンタイプなので、3200゜Kが基準である。蛍光灯ライトの色温度は5000近くあるので、 アンバー系の色温度変換フィルター(このときは4000゜K前後にするため、A−2)をかけ、若干青みが 残るようにした。 奥から玄関の方へカメラが向いたときにキッチンとの奥行きをだそうと、キッチンの方は電球の明かりがある 設定にし、多少低めの色温度でタングステンの感じを出した。 |
新宿の夜 | ガラス張りの喫茶店の外に人物がいるシーンの撮影で、喫茶店の中はタングステンの赤い光、外は外灯と 月光の青い光で新宿2丁目の夜の雰囲気をだそうとした。 街の光には水銀灯、蛍光灯、月光など色々な光がまざっているだろうと、わざとキーライト、おさえ、逆の それぞれの色温度をすべて多少変化をつけて遊んでみたら、結構いい雰囲気になった。 キーライトを4200゜K、おさえを4800゜K、逆を5500゜Kといった感じ。 フィルムはタングステンタイプなので、青い光になる。 |
360度のカメラ | ラスト近く、ホテルの一室のシーンで、台本なし、更にはカメラもどう動くかわからないという撮影があった。 どう動くか分からないということは、部屋の全方向がはいるということで、しかも一旦本番になったらいつカット になるかも監督本人もわからんというシーンである。 部屋には本番中、袴田君、遠藤君、そのシーン出演もする監督、カメラマン以外入れない。 全方向といっても、1箇所でいいから死角をつくってもらうようにし、天井にポールキャットを横に張って、 人物主体のライトを吊ることにした。 ライトを上に吊るのは、カメラが360度の方向を向く撮影には不可欠な方法である。 |
他作品での360度 ライティング |
望月六郎監督の『新・悲しきヒットマン』では、主人公が組の事務所に脅しにいくシーンで、 「櫻井さん、このシーンは一気に最後まで撮りたいから、カメラがどんなアングルになってもライトを動かさない ようなライティングにして欲しいんだけど、大丈夫?」 という監督の要望があった。 カットは割るが、そういう意味では360度のアングルに対応できるようにするということだ。 幸い、ロケ場所の天井が高く、わりとたくさんライトを吊ってもよっぽどのローアングルにならない限りは ライトが写らないようにカメラマンが苦労し過ぎるようなことがなかったので助かった。 こういう場合、いろんな方向から見て、どのアングルでも光の強さのバランスを成立させるのが大変である。 飯田譲治監督の『東京バビロン1999』では、中央のロウソクを中心に、それを取り囲むようにしている7人の 高校生の顔を360度のカメラの動きで順番の見せるというシーンがあった。 このときはカメラが中心で、ローアングルで360度まわるので、ライトは天井には吊れない。 設定がロウソクの光ということもあり、ライトは下から低くあたるようにした。 カメラアングルが動くときだけではなく、2カメの撮影の場合など、ライティングするときには常に死角を見つける ことから始まるのである。 |
監督・・・阪本順治 主演・・・大和武士・佐藤浩市・國村隼・西山由海・芹沢正和
山狩りの懐中電灯 | 大勢の人が山狩りで主人公を探しまわるシーンがあった。山に潜んでいるところを、 遠くからたくさんの懐中電灯の光がせまってくるのだ。 夜の林の中にビームを出すには普通の懐中電灯だと光が弱く、力もないので、ハンド・サーチを何台も使った。 読んで字のごとく、ハンディタイプのサーチライトで、逆からあてると、スモークをたかなくても 空中のちりや埃だけでかなりのビームが出る代物である。 予算の関係で全ての光をハンド・サーチでというわけにもいかなかったので、 ハンド・サーチと大きめの懐中電灯を10本づつで併用した。 |
オープニングタイトル | この映画のオープニングは、自動販売機の前で100円玉を落とし、販売機の下に転がった100円を 手を突っ込んで探していると、何物かが隠した油紙に包まれた拳銃トカレフに手が触れてしまう。 そのトカレフが画面の中でゆっくり回転し、正対したところにタイトル「トカレフ」と入るのである。 リアルには、自動販売機の下など真っ暗である。100円玉を捜す手がトカレフに触れ、引っ込むまでは ライティングも真っ暗なところのようにしなければいけない。しかし、そこにタイトルが出るので、重要な役割 であるトカレフは真っ暗のままにしておくわけにはいかない。本当にその撮影の前日は一睡もできなかった。 朝方、ようやく結論が出た。タイトルが出るあたりでライティングを変えてしまえばいいのである。 ドラマの中の雰囲気をまず作り、タイトルバックとしてのライティングに使う光はスライダックを何台も使った。 タイトルバックになるためにトカレフが回転するまでは、タイトルバック用の光は全てスライダックによって 電圧がゼロにされている。 実際の撮影では、トカレフは回転版に乗せられ、カメラは足場を組んで真上からのアングルである。 最初はあたかも販売機の底のような、非常に暗いライティングになっていて、トカレフに触れた手が引っ込んで 画面から消え、トカレフを乗せた円盤が回転を始めると同時に、トカレフの様子がはっきり浮かび上がるように ライティングされたライトの光が、スライダックで電圧が上げられてゆっくりとあたっていくようにした。 回転している間にスライダックのメモリをゼロから100(ボルト)にあげる。 そして最後に、トカレフの一番の特徴である星のマークにスポットがあたるのだ。 この作品の中で一番うまくいったライティングである。 |
雨の反射 | 主人公のミロがAV監督のマンションに行くシーンで、外では雨が降っている設定だった。 僕がこのシーンについて考えていたことは、この作品の中のAV監督の部屋は、 全体の雰囲気として居心地がいいところにはしたくないなと思っていた。 このシーンはワンシーンワンカットの長いシーンで、移動車を使って撮影した。 雨が降っているのがわかるのは、当然窓が映るときであるが、その窓はシーンのずっと後半にならなければ映らず、 そこで思いついたのは、雨の反射のような光を部屋の中に感じさせれば外の降りしきる雨の存在をずっと感じさせ、 なおかつ部屋の中にいても決して安息の空間jではないような雰囲気を作れるのではないかということだった。 大きな発泡スチロールの円柱じょうの物に銀色の薄いアクリルフィルムを巻き、取っ手をつけて手動で回転 するようにし、光を反射して回転させると乱反射したスジが雨のように見える。 反射する光は色温度の高い青い光にして、雨の冷たさと夜を感じるようにした。 舞台用の機材でドラムマシーンというのがあり、同じ効果を作る事ができるが、借りる予算がなくて手作りで用意したのだ。 出来あがったシーンは、正直に言って未完成である。 上下をさえぎって雨の光の範囲をもっと少なくしたり、改善の余地はまだあるのである。 もちろん、未完成ではあるが、自分の思っている雰囲気は作れたわけで、成功はしたと思っている。 |
広角レンズ | この作品は、殆どのシーンが広角レンズを使って撮影され、さらに手持ちカメラが多かった。 広角レンズのうえに更にワイドレンズを取りつけることもあり、そうなると魚眼レンズ1歩手前という感じである。 その状態で手持ちで移動撮影をしたりするので、ライトをセッティングする場所に非常に苦労した。 僕の助手などは、そういうセッティング上の規制は、考えている事がなかなかできないという意味で結構ストレスを 感じているようだったが、僕は反対にこの状況でどういうセッティングで自分の考えるライティングができるかと いうことを思い巡らしながらの毎日が非常に楽しかった。 今までいろいろな作品に携わり、自分がやってきたライティングが、自分のスタイルが出来てきたというより、 ヘンにパターン化しているのではないかと、少しづつ迷い、悩んでいた時期であったので、枠を取り払ってハジケル ことができた事が、新しい扉を開けたような感じがしていたのだ。 セッティングのための作戦を考えることが多かったのが、雰囲気を作るプランの計算にもつながり、いつもより 頭の中に画を浮かべる作業がよりはっきりできていたような気がする。 |