三池崇史監督の『新宿黒社会』という作品は、2週間の撮影で平均睡眠時間が2時間弱だった。 或る日制作部さんが気をきかせて、新宿のサウナで仮眠をとれるように手配してくれた。 朝に近い深夜、スタッフを乗せたロケバスが歌舞伎町のサウナの前に横付けになった。 「みなさーん、サウナに着きましたァ」 しかし、誰一人として降りる人はいない。 全員疲れきっていて、バスを降りる元気もないのだ。 ロケバスはそのまま翌朝の集合場所へと直行したのだった。 そんな中、たった一日電車がある時間に帰れる日があった。 うーん・・疲れたしなあ、3000円位だからタクシー乗っちゃおうか・・。 いや、せっかく電車があるんだし、もったいないからな・・と、当時住んでいた 世田谷区経堂に帰るために小田急線に乗った。 お、よかった、座れたぞ。よくぞ席が空いててくれました。 「お客さん、お客さん・・起きてください」 ハッと目が覚めるた。ん?なんだ?え?ここはどこ?今何時?え? そこは片瀬江ノ島駅。時計は12時を回っている。 か・・・片瀬江ノ島ァ!・・・・・・・終点はもう神奈川県の海だ。 翌朝は6時半新宿集合で、始発を待つと間に合わないのでタクシーで帰るしかない。 倒れそうになりながら駅の階段を降り、タクシー乗り場へ向かった。 「すいません、経堂までお願いします」 「きょうどう?」 「あのー、下北沢の手前です」 「シモキタザワ??」 「えーと・・世田谷通りのですね・・・」 「せ、世田谷かァ、ありゃ、寝過ごしましたねェ〜お客さん」 疲れているのに居眠りひとつできずにメーターをみつめていた。 時折メーターもかすんで見えた。泣いてるのか?え?無理もないかあ・・。 やっぱり新宿からタクシーに乗るんだった。それが・・いくらだ? 1万7千円・・・。ああ・・・。 |