スペインの映画人



三船プロ時代、スペイン映画の日本ロケに協力スタッフとして参加した。
日本人スタッフは20名。スペインからは俳優を含めて8名である。
監督は主演もかね、チーフ助監督、スクリプター、カメラマン、特殊メーク係の御夫婦と女優2名。
日本からは、故・天地 茂さんが侍役で出演した。
彼らはやたらと明るい。移動中の車の中も食事中でも大騒ぎである。
『アラビアのロレンス』のスタッフだったというチーフ助監督のマルティンもスペインの女優と
フラメンコを踊ったりするのだ。
しかし、彼らと我々日本人スタッフとの仕事のし方にはハッキリと国民性の違いが表れた。
何せ、週に一度は家族で外に出かけなければ離婚沙汰なのだという。
そして、外国人に言わせると、我々日本人は勤勉すぎるらしい。
『狼男と侍』の撮影スケジュールは連日、朝早くから深夜までであった。
ある日、特殊メーク担当のフェルナンドさんとローリーさんご夫妻がホテルへ帰ってしまった。
夫婦喧嘩の末、「芸術には限界がある」という言葉を残して。
そして、カメラマンのフリオ・ブルゴスさんは最高に機嫌をそこねているという。
「ホテルに帰って、本を読む時間もないなんて信じられない」ということだ。
聞けば、スペインでは昼食時間は2時間あり、夕方にはカッキリと仕事が終わるという。
僕なんかホントに3年間休みが無かったこともあるというのに・・・。
その後はなんとか撮影は進み、箱根の宿泊ロケでは楽しい夜を過ごした。
宴会で、僕の彼らひとりひとりのモノマネが大盛り上がりを見せ、ローリーオバさんに抱きしめられた。
温泉の大浴場の男湯は、スペインの女優の乱入で無理やり混浴になった。
この作品は、スペインの映画作品賞を取ったと聞く。めでたいことです。