飯田譲治監督のビデオシネマで、『東京バビロン1999』という仕事をした。 7人の心に悩みを持つ女子高校生達が、意地悪な先生や同級生に呪いをかける話である。 話の中に、つき虫というのが登場する。呪いをかけた後は必ず御払いをしなければならず、それを怠ると邪悪なつき虫が 現れて、逆に自分に呪いが帰って来てしまうという設定である。 形はあの伝説の蛇、ツチノコを小さくした感じで、色は赤黒く、ヌメヌメしていて、作り物とわかっていても、 気持ちのいいしろものではなかった。 どこからそういう形を思いついてデザインしたのかということを、制作した特殊造形担当のスタッフに聞いてみた。 「長靴をはいた猫」の項で登場したKさんである。作ったのは、例の霊感の強いという助手の女の子の話が元だという。 彼女、Tちゃんは、電車に乗っていたあるとき、向かい側に座っていた男性の肩に何かがいるのが見えた。 それは見た事もないもので、肩のあたりを這っていて、消えたというのである。 その何かの形を元にして作ったということである。 はたして、それはつき虫だったのか・・・・謎だ。 それにしても、作品の内容が内容だけに、クランク・イン前の御払いにはスタッフ全員真剣であった。 神主さんが言うには、「これほど気持ちが一つにまとまったスタッフは初めて」というほどである。 撮影はほとんどの日は深夜にわたり行われ、クライマックス・シーンはある倉庫で撮影した。 その日は徹夜になるような予定で、夜も深まった頃、ビデオモニターの前で僕の横にいたTちゃんは、 視線をあらぬ方向へ向け、何かをじーっと見ているようだった。 彼女の霊感の強さを知っている僕は不安になって聞いた。 「ねえ、何かいるの?いるんだろ?」「え?・・・いえ、何でもないですよ」 そんなはずはないと思った。ボーっとしているのではなく、確かにある一点を見つめていた目だったのだ。 Tちゃんはついに何も教えてくれなかった。やみくもに面白がるような人ではないのである。 たぶん何かがいるのだろうと思っていて、自分は見えないというのも怖いものである。 |