通天閣爆発事件

阪本順治監督の『王手』のロケで通天閣で何日も撮影した。
将棋道場は地下だったが、事件の当日は展望台で朝8時から営業が始まるまでの2時間の撮影予定だった。
そのシーンで使うライトは家庭用のコンセントからは電源を取る事ができないほどワット数が大きいので、
我々照明部は通天閣の電気室の配電盤から電気をつなげることにした。

あらかじめ用意していた器具で、大元のブレーカーのところにワニの口のような部品をかませるのである。
珍しい作業ではないので、簡単に電気がつながり、ライティングをしていると、電気係のおじさんが
「にいちゃん、こりゃあ、あかんで。こういう風につなげんとあぶないでェ」と言ってきた。
「あ、いつもこうして安全にしてますから大丈夫ですよ」
「いや、危ない。わしがやったるからいっぺんはずさなあかん」
まあ、電気係の人だし、いうことをきいてこの場をおさめようということで、おじさんにまかせることにした。
「な、これをこうしてやなあ・・」
ドッカアァーン!!
一瞬何が起きたんだろうと思うと、おじさんの手元が狂ってショートしたのだ。
配電盤は溶けてえぐれ、真っ黒になっていた。
ブレーカーが落ちていて、とりあえずブレーカーをONにしようとスイッチを上げると
ブヴォォーン!!
なんとブレーカー自体イカレテしまっているようだった。
「あ、あかん・・そうや、こっちの使ってないブレーカーに交換したらええんや」
おじさんは爆発したブレーカーをはずし、隣についていた予備のブレーカーに付け替えた。
「ああ、ビックリした。これでええやろ、あげるでェ」
そう言って付け替えたブレーカーのスイッチを上げると・・・
ドッカァァァ―ン!!
「なんで・・・新しいのに換えたのになあ」
下から制作部さんが血相変えて入ってきた。
「あの、エレベーターが止まって動かないんです」
よく見ると、爆発した配電盤には動力と書かれていた。爆発したせいでエレベーターが止まり、
エレベーター係の職員と制作部さんのひとりがとじこめられてしまったのだ。
「そらあかん、よっしゃ、予備電源があるんや。今上げたるから待っときや」
おじさんは配電盤の裏にまわると、いつの時代から使ってないんだといった感じの大きなレバーがあった。
「いくでェ」
おじさんは埃だらけのレバーをかかえ、力いっぱい引き上げた。
ボォォォーン!!!
ドヒャ〜
何がどうなってしまったのか、照明部が図を描きながらの検討が始まった。
いつの間にかおじさんの姿が見えない。あれ?どこいったんだろう・・。しばらくして電話が鳴った。
「ああー、すまんが、ブレーカーの製品番号を教えてくれんかなあ。今ニッポンバシなんやあ」
おじさんだった。ニッポンバシは大阪のミナミにある電気街である。
おじさんは通天閣の長い階段を玉のような汗いっぱいにして上がって帰ってきた。
「もうあかん、ああ〜しんど・・。大きいブレーカー買うてきた。これに換えたら大丈夫や。わしは力あらへん、
にいちゃん換えてくれるかー・・」
もう4回爆発しているブレーカーを、恐々はずし、交換は完了した。しかし・・・
「よっしゃ、もう大丈夫。ブレーカー上げて」
「いや、でも危ないですよ。電気会社の人呼びましょうよ」
さんざん言っていることだったが、おじさんは電気会社の人を呼ぼうとしないのだ。
我々がためらっていると、
「ほんだらわしが上げたるわ、いくでェ」
おじさんは付け替えたブレーカーのスイッチに手をかけた。
いやな予感がして、我々はジリ、ジリ、と後ずさりしていた。
ドドッカーーン!!!
火花が散り、火の粉が降りかかってくるほど、今まで1番の爆発だった。
電気会社の人達もまた、玉のような汗を流しながら階段を上がってやってきた。
2時間のあいだ、エレベーターに2人の人間が閉じ込められていた。

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