後姿の子供

一度一緒に仕事をした撮影部さんのFさんに聞いた話だ。
Fさんは自主製作映画のカメラマンを担当し、山に撮影に行った。
一本道の同じ場所で、早朝シーンでは山側から谷への道、そして、夕方に逆方向というカメラアングルで撮影した。
人物が登場しない、風景だけのカットを予定通り撮影し、出来あがりを待つだけとなった。
現像からあがってきたフィルムは、もちろん早朝と夕方の山の一本道だけのはずだった。
「あれ?子供が歩いてる」
「ホントだ、なんだよー、ダメじゃん」
カメラマンのFさんは我が目を疑った。確かに一本道を歩く子供の後姿が写っている。
「そんなはずはない。俺がカメラを覗いているときには誰もいなかった。それにしても、
誰かがこんな道の真中を歩いてたら皆も気がつくはずだろう?」

スタッフ達は何も言えなくなった。どう思い出そうにも、子供が歩いてたりしたら、現場で気付くはずだ。
早朝のカットと夕方のカット、どちらにも後姿で歩いていく子供が写っていた。同じ子供である。
考えれば考えるほど、説明できないことが増えて行った。
早朝のカットは、山側から谷側へ。そして子供は後姿だ。ということは、子供は人が住んでいないという山の方から歩いて来たことになる。
さらに、夕方のカットは谷側から山側へ。子供はやはり後姿で歩いて行く。これから夜になるというのに、山に何の用があるのか・・。
何度も言うようだが、わき道のない、一本道なのである。
いまだにそのカットは謎のままであるという。

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